[携帯モード] [URL送信]

(は)ハッピーエンドは素直に訪れてはくれないらしい…渡邊先生と生徒達



「寂しい…」

夕暮れ、小窓から西日が射す台所に立ち渡邊教諭は呟いた。
少し前まで台所に立っていたのは、自分には勿体ないぐらいの綺麗な彼女だった。
同僚の教師に連れて行かれた婚活パーティーで知り合った彼女は、渡邊教諭の築30年のボロアパートにも嫌な顔ひとつせず、掃除、料理を行う女らしい彼女だったのだ。
万年床の布団は干され、ヤニ臭さが染み付いた部屋は換気をされ、溜まったゴミは捨てられ、コップに可愛い花なんか飾られて昭和のフォークソングのような付き合いだったが久しぶりの春に渡邊教諭も幸せだったのだ。

「で、何でフラれたん?」
「せや、えらいべっぴんさんで性格もえぇって自慢しとったやないか」

渡邊教諭がフラれたということで慰めようと、白石、忍足、一氏、金色が集まった。
他の者達も誘ったが用事があったり、興味がないなど集まらなかった。

「大人の事情や」
「何やカッコつけて」
「おもろなかったんちゃうん」
「謙也君もユウ君もそなに素直に言ったらダメよ」
「そやで、今日はオサムちゃんを慰める会やで。いくら本当の事でも言ったらあかん」
「こら、こら、こらー、小春と白石も俺らに注意しときながら言っとるやん!!」

渡邉教諭が空になった日本酒のワンカップをコップがわりに用意をしていると、後ろの畳部屋から好き勝手に傷口をえぐるように生徒たちは騒ぐ。
人の失恋を慰めようというよりは楽しんでいるようにしか感じない。
ちゃぶ台にはタコ焼き、イカ焼き、ポテトチップスに炭酸飲料が広げられパーティー騒ぎだ。

「せやけど、何で別れたんですの?」

小春がさりげなく手伝いに、用意されたワンカップの瓶を台所に取りに来ると、小首を傾げ聞いてくる。
小春は恋バナが大好きだ。眼鏡の奥の瞳は興味津々と語っている。

「……金かなぁ」
「金?」
「貯金が0円っていうんがバレた瞬間、別れ切り出されてしもた…」

渡邉教諭はあるだけあれば使う。主な用途として、競馬に煙草、後は酒に大半が消えていく。
競馬に当たればそれなりにまとまった貯えが出来るが、それも負ければまた消えていくという繰り返しである。

「この不景気に公務員やし、安定しとると思ったんやろねぇ」
「酷い女やなぁ、俺みたいに一途やなかったんやな。なぁ、小春」

小春を手伝いにそばに寄ってきた一氏が小春の肩に腕を回し組もうとするが、即座に豹変した表情で小春に腕を振り払われる。

「小春〜……」

悲しそうに一氏は小春の名を呼ぶが、小春は気にもとめず一氏を無視する。
一氏が自分で言うように、小春への恋心はまさしく一途である。

「なんや、金が問題なら金塊ある言えばよかったやん」

忍足は白石の包帯の下に目線をやり不思議そうに首を傾げる。

「…忘れとったなぁ」
「アホやなぁ」
「ほんまやなぁ…」


(ほんま、ちょっとだけやけど愛というもんを信じとったんや…)


短い春だったと、去った彼女にまだある未練に生徒にはバレないように思いを馳せる。

「えんや、俺にはまだクリスティーナエリザベスがおる!!」
「外人!?」
「それ、競馬の馬ですやん」
「えぇんや、幸運のお馬ちゃんや!!」

悲しさと寂しさを押し込めて、渡邉教諭は叫んだ。



Thanks!!4years old.




あきゅろす。
[管理]

無料HPエムペ!