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(な)ないものねだり…遊廓赤観



二番目の姉になりすまし女衒に連れられ街に来た。
質の良さそうな着物を身に纏った女衒は家から離れるとすぐに汚らしい着物に着替えた。
質の良さそうな着物を着ていたものの下卑た雰囲気というものは滲み出ていて、最初から胡散臭いと思っていたがそういう男のほうが扱い易い。
褒めるところなんて何もなかったが、男のことを少し褒めてやるといとも簡単に女衒は調子に乗り街までの旅路の中良くしてくれた。
だから男が遊郭の見世で売り払おうと差し出し、見世の者に奥の部屋で男とバレた時の表情は傑作だった。
故郷から街までは遠い。金を返せと文句を言うほうが一苦労だ。
売り物にならないと分かれば捨てられると思っていたが、計算違いだったことは街には女以外にも男が身体を売る見世があるということだった。
怒り狂い手をあげた女衒に遊郭の楼主はすんでのところで割り、他の見世を紹介してやろうと止めた。
連れて行かれた見世は同じ年頃の男子ばかりが集まった見世だった。
見世の楼主は品定めをするように見たあと、すぐに買い取ろうと女衒に言った。女衒は上機嫌になり、下品な笑みを浮かべ頭を垂れた。
女と同じように身体を売る男の遊郭は意外と向いていたようで、郷にいた頃より豪勢な暮らしが出来るようになった。
生まれ持ったきめ細かい白い肌は、郷では当たり前だったが見世では一等の武器になった。
頭が悪い男達と駆け引きしながら虜にし、上に登りつめた。


「久方ぶりに来たかと思えば、また無茶なことをして」
「豪華でいいだろ」

先程までは見世の者総出で騒いでいたが、一息ついた頃に皆は引き、自室には赤澤と二人残された。
総仕舞いで貸し切られた見世はいつもより静かで、今日の一等の主は膝を枕にし横になり頭を預けてくる。

「一気に使うから来れなくなるんですよ」
「一気に使わないと観月が一等にならないじゃねえか」
「一日だけの一等だなんて儚いものですよ」
「でも、一等だ」

手を取られ頬にあてがわれ、真っ白な歯を見せ赤澤はニカリと笑う。
その、子供のように笑う様にいつも毒気を抜かれてしまう。

「それより、今回は凄い大物が捕れたんだ!!」
「大物ですか?」
「鯨だぜ」
「鯨…」

書物で見たことはあるが山に囲まれた故郷では、鯨がどういうものか見たことがない。

「大きいんだぜ、それに鯨は余すことなく売れるから儲けもでかい」
「そんなに大きいんですか?」

握られていた手を離され、赤澤は両手を広げ大きさを表す。問えば力強く頷き、さらに両手を広げる。

「観月にも見せてやる」
「出られないのに見れるわけないでしょう」
「俺が、外に出してやる」
「………」

身受けする金額がどれくらいなのかを知らないのか。どれだけ夢みたいな戯言なのかきっと彼は分かっていない。

「次も凄い大物を釣って観月を身請けしてやる」
「…そういうなら少しは早く身請け出来るように馬鹿な金の使い方は止めてください」

もう一度、指を絡めた対照的な赤澤の肌の色は日光で焼けた肌をしている。
日は嫌いだった。肌の弱い僕は日の光を浴びるとすぐに負けてしまう。
この見世で働き出してから日の光にはめっきり当たらなくなり、白い肌はさらに白みを帯びた。
日に焼けない生活は憧れだったし、郷にいた頃より豪華な暮らしが出来ている。
憧れていた綺麗な着物。ここでの暮らしは満足さえしていた。

「身請けしたら、一番最初に海に連れて行ってやる」
「日焼けするのは嫌ですよ」

あんなにも嫌いだった日の光さえも、赤澤と一緒に外で浴びれるのなら良いかもしれないと叶わない夢さえ見るのだ。
手に入れたら今迄いらなかったものが、また欲しくなる。
全て手に入ることなんて在り得ない。
ないものねだりなのだ。


Thanks!!4years old.




あきゅろす。
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