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 確かに少し汚しちゃったけど、大丈夫、誰かがなんとかしてくれるよ。冷えたひどく不味そうなコーヒーをすすりながら、サイバーはあっけらかんとした表情で言ってみせた。罪悪感やらはまったく感じられない。

 あまりに屈託のない笑顔を見せるものだから、躍起になっている自分が馬鹿らしく思えてきた。僕の中に渦巻いていた怒りが小さくしぼんでいくのが分かる。

「それにしてもさ、《アチラ》さんもひどいと思わない? いきなり僕のテリトリーにずかずか入ってきて、大掃除が行われるから出てけ、だなんて。僕は断固拒否したよ」

僕は首を傾けた。

「アチラさんって、もしかして警察署のこと?」

 うん、そういうこと。サイバーは面倒くさそうに頭をがしがしと掻いた。

 昨夜、無理矢理に銭湯にいかせて無理矢理にシャンプーをさせただけあって、髪がさらさらとリズミカルに踊っていた。

「けどあいつら、無理矢理僕の大切な機器やらコレクションやらをダンボールに詰めて外におっぽりだしたんだ。幸い、毛布一枚は貰えたわけだけど……今思い出しても信じらんない。鬼畜だよ。血も涙もないよ。ケダモノだよ」

 サイバーは昨日の朝、毛布と大きめのダンボール一つ持って交番に現れた。

 その時の風貌ときたら、怪しい以外に言うことがなかった。彼がこのダンボールの中に死体が入ってます、僕が殺しました、なんて言われてもおかしくないくらいだった。

 その後、おおよそ自白みたいな形でサイバーは今夜泊めてくれと頼みこんできた。あげくの果てには、泣きながら僕に抱きついてきて涙と鼻水をべっとりすりつけてきた。きれい好きの僕にとっては最高級の不快感と嫌がらせだった。

 あんな気持ち悪い思いをしたのは、数年前に交番に現れた酔っ払いに、兄ちゃんいいオトコだなケツ触らせろ、と言われた時以来だった。

「今更ながら、なんで僕のところにきたんだ? お金は一応持ってるみたいだし、ホテルとかもっとマシなところだってあったはずだろ?」

サイバーはにっこりと笑った。

「だって、菅さんが岸和田のところにいけって言ったんだもん。ついでに暴れて、泣きわめいて鼻水すりつけて、部屋なんかきれい好きが発狂するくらいに汚くしてやってこいって」

 今まで人間とは上手くやってきたつもりだったが、なんだか人間不振に陥りそうである。サイバーの言葉を借りれば、やつこそ鬼畜であり血も涙もなくケダモノだった。

 もし警官という職ではなくなり、神の許しがおりたなら、やつとさしがねであるサイバーに好きなだけ飛び蹴りとわき腹こちょこちょを食らわせてやりたい気分だった。

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あきゅろす。
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