[携帯モード] [URL送信]
 





考えるな。余計なことは考えては駄目だ。
脳裏に浮かぶ様々な可能性と疑問を振り払いながら、薄暗くなった歩道を歩く。
いつも二人で歩いていた通路。一人でいるとどこか肌寒さを感じた。寂しい。
僕が今こんなにも孤独に震えているのに、彼は……。
駄目だ、何も考えるな!
ぶんぶんと頭を振って後ろ向きな思考を消し去ろうとしたのだが、無駄に終わる。
彼は彼女の気持ちを受け入れてしまったのか?あんな見ず知らずの小娘の。
……僕のどこに不満があったんだろう。
一緒にいるときは、ずっと彼の意思を尊重してきた。僕がの希望や、したいことは我慢して。
手を繋ぐのだって、彼が人目を気にするからいつも人のいないを選んでいた。それ以上のことだって、恋愛には奥手な彼を急かさないように気を使って会話にも出さないようにしてきた。
それがいけなかったのだろうか。彼だって、健康な高校生男子なのだし、もっと……。
「お前彼女と別れたの!?」
突然聞こえてきた言葉に、思わずびくりと反応してしまう。
僕の斜め前で、若い男性数人が集まって配慮の無い大声で話していた。
「あいつが俺が手を出してこないのが不満だったらしくてさ……」
「それで破局か?何やってんだよ」
盗み聞きなんてよくない。そう思いながらも、ついついこの会話に耳を向けてしまっていた。
「だって、二人でいてもあいつ変化が無いし、付き合うのは俺が初めてだって言うからずっと色々と我慢して、向こうから誘ってくるのを待ってたんだぞ。そしたらいきなり、あなたは私を抱きたくないのね、愛してないのね!なんて言われてさ。訳分かんねぇ」
「初めて付き合う相手だからこそ、リードしてもらいたかったんじゃないか?」
「んな事言われてもなー……」
ため息をつきながら、もう遅えんだよ、と片方の男性が呟く。
まだ彼らの会話は続いていたが、僕は走ってその場を後にした。
そうか、僕に足りなかったのかそれだったのか。相手を尊重してばかりではエスコートだって出来ない。恋愛に不慣れな彼のため、僕は率先して手を引いてあげないといけなかったんだ。
自宅に戻って、玄関の鍵をかけてから携帯電話を取り出した。今すぐにでも彼に連絡して、会いたい。この勢いがあるうちに、彼に触れたかった。
アドレス帳から彼の番号を探し出して、通話ボタンを押そうとする。
しかし、ボタンをクリックする前に、聞きなれた着信音が流れた。ディスプレイには彼の名前が表示されている。
先を越されてしまったという思いと、何の用事なのだろうという疑問が同時に沸き立つ。それと一緒に、別れ際に感じた言い表せぬ不安も蘇ってきた。
それでも彼からの着信を無視するわけにはいかず、僕は電話に出る。
「……はい」
「古泉か?今からちょっとお前と話したいことがあるんだ。そっち行ってもいいか?」
僕が呼ばずとも、彼はここに来てくれるらしい。奥手な彼からのこんなアクションは、恋人同士になってから初めてだ。
昨日までの僕ならば、飛び上がって喜んでいただろう。でも、今は……。
「い、いいですよ。適当に飲み物とか、用意しておきますね」
「ん、頼む」
ぷちん、とあっさり通話が切られ、耳元に規則的な機械音が流れた。
しばらく携帯電話を握り締めたまま、その場に立ち尽くす。
「……あ、彼が来るのなら、掃除しとかないといけませんね」
洗濯物が散らばっているから、一応下着ぐらいは隠しておかないと、怒られてしまいそうだ。面倒臭がりにみえて、結構几帳面なところもある人だから。
自室に転がる衣服を拾い集めながら、怒る彼の姿を思い浮かべ、自嘲気味に笑った。面白いことなんて、何も無いのだけど。













あきゅろす。
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!