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「僕は、あなたの事が好きなんです」


……は?なんだって?

目が点になるってこんな時を言うんだな、と、今身を持って理解してしまった。
好き?すきすき……、ああ、友達として、って意味か。紛らわしい事言いやがって。だったら俺もお前のことは嫌いじゃないぞ。
「何か勘違いされる前に断っておきますが、恋愛の対象として、という意味ですからね」
直前の俺の思考が完全に否定されてしまった。そうか、そっちか。
なんだが告白をされているという実感が沸かなくて、どこか他人事のように思えた。
俺自身別に同性愛とか偏見は無いし、当人の問題だから好きにすればいいと思っている。しかし、それは俺自身が対象にされるのなら話は別だ。
「お、お前、俺が好き……って」
古泉の手に触れられている両肩に、悪寒が走る。
そういった意味で俺が好きならば、今のこの状況はとても危ないのではないか。同級生の友人相手に貞操の危機なんて感じたくないぞ。
今すぐにコイツを突き飛ばして逃亡したい衝動に襲われるが、生憎ながら俺の身体は俺の思い通りには動いてくれない。
「はい。好き、なんですよ。そういった対象として、ね」
肩に回された手に力が込められる。
指先が制服越しに、皮膚に食い込んだ。痛みに、顔が歪む。
「―……痛いですか?」
顔を覗き込まれて、そう問いかけられた。
痛いに決まっている。故意にやっている癖に、何故聞いてくるのだろうか。
「危害は加えない、んじゃなかったのか」
「加えているつもりはありませんが」
じゃあ、こんなにも肩口が痛むのは何でだろうな。
言葉で抗議も出来ないし、今すぐこいつを突き飛ばす事もできないならばと思い、至近距離にある古泉の顔を睨み付けてやった。
腹の立つ事に古泉は、そんな俺のささやかな反抗に物怖じもせずに、俺の視線を見返す。
「……ただ、僕はあなたのことが、好きなだけなんです」
それは、さっきも聞いた。それとこの行動、何の関係があるんだ。
本気で俺の事が好きなのなら、今すぐその手を離して開放してくれ。
どことなく様子のおかしい古泉の姿に、脳裏のどこかから警報が聞こえる。早く、ここから去った方がいいと騒ぎ立てる。
「い……」
いいから、早く離してくれ。そう言おうとしたのだが、言葉を発する前に口を塞がれた。
生ぬるい感触が唇に広がり、動けない俺は必死に唇を噤んで、せめてもの抵抗をする。
だが、古泉は無理に口内を犯そうとはせず、ただ唇の表皮をぺろりと舐められただけですぐに顔を離した。
そして両肩を握られたまま、力ずくに横倒しにされる。
「う、わっ……!」
倒れた先は運良く古泉のベッドの上だった。運良く、ではなくて、それを狙っていたのかもしれないが。
ベッドの上で仰向きになりながら、上半身だけを起こす俺を、古泉が見下ろす。
こいつがこれから何をしようとしているのか、なんとなくだが想像できる。不意打ちともいえる告白を受けた直後にこんな所に放り投げられて、何も分からないほど俺も初心じゃない。
「…き、危害は、加えないって……言ってたくせに、」
そんな事も言いましたね。じゃ、やめましょうか。
ここまで来てこいつがそんな返答を返してくるとは到底思えないが、それでも心のどこかに存在しているだろう古泉の良心に問いかけるように、先ほどの発言を口にする。
俺は古泉のことは嫌いじゃないし、友人だと思っている。だから、今ならまだ引き返せる。正直キスをされたことは大打撃だが、こいつが忘れて欲しいと言うのならば、犬に噛まれたと思って忘れてやる。だから。
どうやら俺は、この期に及んでもまだ古泉との友人関係を続けたいらしい。自分で思っていたより、こいつに好意を持っていたのかしれない。
だが、そんな俺の切実な思いも、今の古泉には全く届いていないらしい。
古泉が横たわる俺を眺めながら、切羽詰ったように首元に手をかけて、襟を寛がせる。





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