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昼休憩に飯を食い終わったあと、一応谷口や国木田に一声かけてから、言われた通りに屋上へと向かう。
一体何の用事があるんだろう。



重い屋上の扉を開いて、晴天の下に出てみたら、直に先に待っていた古泉の姿があった。
俺を見つけると、安心したように笑う。俺が来ないとでも思っていたのか?
「ありがとうございます」
何故か礼を言われる。
その意味が分からなくて、首を傾げた。 
「あ、こんな時間にわざわざ僕の呼び出しに応じてくださって、です」
そんな俺の様子を見て、古泉が説明をつけてくれる。
別に休憩時間なんだし、感謝されるほどのもんでもないんだがな。


「あなたにここまで来てくださったのは、先日からあなたの身に影響を及ぼしている涼宮さんの力、についてなのですが」
その話か。
遂にハルヒの力を有効活用でもする気なのかと思い、少し俺の身体に緊張が走る。

「もう僕は満足しました。なので、そろそろその効果を解いてしまおうかと思います」

しかし、古泉が提案してきたのは、俺が考えていたこととは全く逆の事だった。
もう僕は満足しました、って、お前何にもしてないじゃねえか。
「お前、それでいいのか」
「ええ。あなたも早く厄介事は終わらせておきたいでしょう?それに、涼宮さんの力を利用してあなたに近寄っても仕方がありませんし……無理に事に及ぼうとしても、嫌ですよね。一方的に気持ちを押し付けても、後に感じるのは虚しさだけです」
顔を俯かせて、ぼそぼそと言葉を発する姿は、どうみても満足しましたって顔じゃない。
なんなんだコイツは。俺が嫌がるとか、そんな事以前にだな……!ああもう、苛々する!うっとおしい!
俺は背を丸めて顔を伏せる古泉のネクタイを握った。俺より長身の男が、驚いたように顔を上げる。
「で、結局お前は何がしたかったんだ?」
「はい?」
きょとん、とした顔で、古泉は俺を見た。
俺ははっきりしない事は嫌いだ。ついでにああだこうだ理由をつけて、自分の本心を隠してうだうだする奴も嫌いだ。
「朝、一緒に登校して、日曜一緒に遊んで?お前はどんな結果を望んでいたんだ?」
「……ぁ、え」
状況についていけていないらしい古泉が、瞬きをしながら視線を泳がす。
「あ、あなたと、もう少し仲良くなれたら……嬉しいな、と思って」
「それだけ、か?」
握ったネクタイを勢い良く引っ張る。自分へ向かって。
当然ながらお互いの頭部が急接近し、そのまま額と額がぶつかって、ごつんと良い音が辺りに響いた。
「いっ」
頭部を襲う痛みに、思わず持っていたネクタイを離す。古泉も突然の不意打ちに、その場に尻餅をついた。
違う違う、俺は頭突きがしたかった訳じゃない!
「お、お前、……はっ……!」
俺は額を片手で押さえながら、座り込む古泉を睨み付けた。
視界が微かに歪んでいる。痛みに、目元に涙が溜まってしまっているらしい。
「俺に、どうして欲しいんだ?」
古泉が俺を見上げる。その額は赤く腫れてしまっていた。ついでに目元が赤い。美形が台無しだ。
でも、今はそんな事は関係無い。古泉の正面にしゃがみ込み、目線を合わせて言葉を続ける。
「俺が嫌がるとか、そんなのとりあえず置いておいて、言ってみろよ」
「い、いえ……ですが」
なにがですが、なんだ。
いい加減正直になれ。
「俺が言えっつってんだ、何か問題あるのか!?」
ここに来てまで古泉の煮え切らない態度に、俺の苛立ちも最高潮へ達する。
思わずまたネクタイを握り締めてしまった。二度目の頭突きを恐れてか、古泉が頭を後ろへ引く。
「いいから言え!」
「……あ」
今にも泣き出してしまいそうな、情けない顔をしながら視線を巡らせる。
正面に俺がいるのだから、余所見なんかするな。
そして伏し目がちの視線で、下を見ながら唇を震わせた。
「あ、あなたに……もっと、もっと僕のことを、好きになって欲しい、です」
その気の抜けた顔つきは気に入らないが、こいつにしては上出来だろう。
恐る恐る、といった様子で俺へと視線を戻す姿に、どことなく愛おしさを感じる。
それが、ハルヒの力が原因で湧いた感情なのかどうかは分からない。だが、不快なものではない。
俺はまたネクタイを握る手に力を込めて、自分の方へと引き寄せた。今度は頭突きにならないように、気をつけながら。
「……!」
「ぅっ?」
しかし、今度は前歯同士がぶつかってしまい、またしても痛みが走る。咄嗟にネクタイを離してしまった。
なんで上手くできないんだよ……!
自分のあまりの不器用っぷりに焦れながら、その場にしゃがみ込む。
古泉も二回連続で顔面にあらぬ攻撃を食らわされて、こいつ何がしたいんだ、なんて思っているだろう。
恥ずかしくて、しゃがんだまま屋上の地面を見つめていたら、不意に頬に手が添えられた。
促されるように顔上げてみると、目の前には古泉の丹精な顔が。
「……」
流れるような動作で、唇を重ねられる。
こいつ、キスも上手いんだな。何でもそつなくこなしやがって、忌々しい。

暫くして顔を離した古泉は、とても嬉しそうに笑っていた。







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