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結局その日はそのまま真っ直ぐ家に帰った。

これ以上あいつと一緒にいる気にはなれなくて、晩飯も家に帰る途中でコンビニに寄って、自分の部屋で済ませてしまった。
腹も膨れたし、風呂に入ってベッドに潜り込み、さあ寝ようかと電気を消して瞼を閉じたら、先程の古泉の台詞が自動的に脳内で再生された。
『――僕は、あなたの事が……』
今こんな場所で悩んでも仕方ないのだが、意識しないようにしようと思っていても、どうしても思い出してしまう。
あれは本気か?本気なのか?どうやったら同性をそういう対象として見れるんだ。俺には全く理解できないぞ。
薄い掛け布団の中にもぐって、頭を抱える。しかも何で俺なんだよ。もっと良い男は他にもいるだろうに。
そこで、ある一説を思い出した。
お年頃の子供は、友情と恋愛を履き違えやすいとかなんとかどこかで聞いたことがあったな。古泉もそれに違いない。まともに話せる同級生が俺しかいなくて、寂しさのあまりに何か勘違いしてしまったんだ。
だとしたら、あの古泉の言葉も一時の気の迷いにすぎない訳だ。
よし、これで解決。
掛け布団から頭を出して、枕に頭を乗せ直す。
俺の嫌がるような事はしないと言っていたし、適当に付き合ってやってあいつの目が覚めるのを待てばいいか。

……しかし、初めて告白された相手が同性だなんてね。ギャグだとしてもいまいち笑えないな。





朝、校舎の下にある坂の入り口で、古泉の姿を見つけた。
なにやら忙しなくきょろきょろと辺りを窺っている。怪しい奴だ。
そして、俺と目が合った途端、花が開いたような笑顔を浮かべ、小走りに駆け寄ってきた。
「お……おはようございます」
「……はよ」
何だよ、何でそんな笑顔で俺を見るんだ。
まさか俺を待っていた、とか言い出すんじゃないだろうな。いや、今のシチュエーションを考えるに、確実に俺を待っていたんだろうけど。
「あなたって、登校するの遅めなんですね」
そう言って、少し困ったように苦笑いをした。
もしかしてかなり前からここに立って、俺を待ってた……なんて無いよな?
それが事実だとしたら、すごい執念と言うか、健気と言うか。気持ち悪い以前に申し訳なくなってきた。明日はもう少し早起きしてもいいかもしれない。
古泉は俺の前に回り込んで、正面から俺を見つめる。
そして背筋を伸ばして、言った。
「僕と一緒に学校まで歩いてください。お願いします」
最後に、ぺこりと頭を下げる。
「…………」
周囲の時間が止まった気がした。
……で、俺にどうしろと?
こんなのわざわざ頼むような事じゃないだろ。ここまで畏まって言われても、どう反応すればいいのか困ってしまう。
それに別に今の状況じゃなくとも、なんでもない時だって朝に会ったら一緒に登校ぐらいしてやるのに。よくわからん奴だ。
しばしの沈黙が流れる。が、古泉には絶対服従である俺の身体は、自然と首を縦に振っていた。
古泉がまた嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていると、表現しがたい何かが、俺の胸の中に溜まっていく。

古泉と並んで、学校に向かって歩き出す。これじゃ普段と変わらないじゃないか。
隣を歩く古泉を横目で窺ってみても、嬉しそうに薄ら笑いを浮かべているだけ。
こいつ、昨日俺のことが好きだって言ってたんだよな?この程度で満足なのか?
小学生だってもう少しは高望みするぞ。幼稚園児か、お前は。
別に何かされたいわけではないが、いつもに増して控えめなこいつの態度が気に入らない。
せっかくの機会、なんて言うのならばもう少し状況を上手く利用しろ。つまらん男だな。
苛立ちながら斜め上にある顔を見上げると、ふと目が合った。人の気も知らず、にこりと笑いかけられる。
ここで俺は確信を持ったね。
こいつはただの馬鹿だと。







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