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次の日、様子を見に行ってみると昨晩と同じようにぐったりと床に横たわっていた。
昨日の映像をネタに弄ってやろうと思っていたのに、どうしたのだろう。
額にそっと触れてみたら、熱い。発熱してしまっているらしい。たぶん、考えるまでも無く原因は僕だろう。
……これ、僕が面倒見るべき、ですよね。

はぁはぁと荒く息を吐く彼を抱き上げる。当然ながら重い。ついでに女性を抱いているのと違い、身体が硬くて腕が痛んだ。
なんで男なんて抱き上げないといけないんだ。多少苛立ちながら、側にあったベッドに慎重に降ろした。
次に部屋の中に用意してあったタオルを濡らして、顔等に付着した汚れを拭ってやる。そしてもう一枚新しいものを持ってきて、水道水で濡らしてから額の上に乗せてあげた。
これでいい、か。
人の看病なんてした事が無いから、よく分からない。


一旦外に出て、周囲の人間に今日は個室に篭って仕事を処理すると伝えた。ここ最近の僕の仕事はほとんどが資料整理だけだったから、個室に篭ったままでも十分片づけられる。
むしろ部下と顔を合わせなくて済むから、こちらの方が楽かもしれない。
別れ際に、やはりあのうるさい部下が僕に話しかけてきて、今日は個室に篭られるなんてどうしたんですか、もしかして彼女を連れ込んでるとかですか。なんて下世話な事を聞いてきた。
僕が彼女なんて連れ込むわけが無いだろうに、お前らと一緒にしないで欲しい。
やはりこいつとは気が合わないと思いながら、僕は自分の部屋へと戻った。

ベッドに横たわったまま、相変わらずぐったりとしている彼の顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
とりあえずこの言葉はかけておく。
しかし、そう問いかけても彼は呼吸をするので精一杯らしい。まぁ、別に心配しているわけでは無いから、返事なんていらない。
僕は僕で自分の仕事をするために、持ち込んだデータ機器を広げた。
一応看病する気は少しはあるけれど、本格的に面倒を見るつもりは無い。むしろ彼の体調がどのように変化していくか、その過程が気になる。この体調不良の原因が僕にあるのならば、尚更しっかりと見届けておかなければならない。

「……こ、い……み」
小声で僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。上官を呼び捨てとは、なんて無礼な。と思ったのだけど、僕が彼の立場だったとしても、こんな状態に追い込んだ相手を敬称を付けて呼んだりなんてしないだろう。
「なんですか?」
「み、……」
ぼそぼそと聞き取りづらい。
なんとか耳を澄ませて集中しながら、聞き取れた単語をつなぎ合わせて考える。
どうやら水が飲みたいらしい。
外に出て取りに行かないといけないものだったら面倒なので断っていた所だったが、水程度ならば備え付けの冷蔵庫に入っている。
僕は立ち上がって、少し歩いて部屋の隅に置かれた小さな冷蔵庫の中から、水を一本取り出した。一応キャップを開いてから、彼の手元に置く。
「飲ませてくれ、なんて言わないでくださいね。僕はそこまでする気はありませんから」
「……」
震える手で受け取って、何とか自力で口元へと飲み口を持っていく。
「断っておきますが」
彼の、熱に浮かされた視線が僕へと向かう。
冷たいかもしれないが、これ以上甘えられては困る。だからこれだけは伝えておきたい。
「僕はあなたが心配でここにいる訳ではありません。あの薬品を投入した結果がどうなるか見届けるためにこの部屋にいるのです。だから、別にあなたがどうなろうと構いませんので」
僕のこの発言に、特に驚きもしなかったらしい。彼は何の反応も返さず、僕を見ていた。
別に僕が自分を気にかけているかもしれない、だなんて、最初から頭の隅にも存在しないのだろう。
「もし、あなたに何かあったら書類上の処理は殉職、その書類が発行されると同時に昇進扱いになりますよ。ご家族にもたくさんのお金が支払われますし、いいですね」
「……」
ご家族にも、の辺りで、彼の眉がぴくりと動いた。家族の話はあまり出されたくないのか。
まだ水の入ったままであるペットボトルがベッドの下へと放り投げられる。蓋が開いたままのそれは、中に入っていた水を撒き散らしながら、ころころと床を転がった。








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