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「古泉、……古泉っ!」
俺の手を引きながら歩く目の前の男を呼び止める。
部室からある程度離れた、人気の無い場所で立ち止まった。そして振り返って、真面目な顔で俺を見つめる。
「どうしたんですか?先程、何やら様子が変だったようですが」
「なんか、一瞬声が出なくなった気がしたんだが……」
でも、もう普通に喋れるぞ。
たまたま息が詰まっただけか?
「…………」
古泉がじろじろと俺を見ながら、顎に手を当てて考える仕草をする。
しばらくそのポーズのまま首を捻った後、片手を俺に向かって差し出した。
「お手」
「は?お前、何言って……」
俺は犬じゃない、と主張する前に、俺の左手が勝手に古泉の手のひらに乗った。
な、なんだよこれ!俺は何もしてないぞ!
「……なるほど」
何がなるほどなんだ、何か分かったのならすぐに説明をしろ!
「先ほど、涼宮さんが言っていた言葉を覚えていますか?」
さっき、ハルヒが言っていた言葉……?
記憶を遡り、なんとか掘り起こす。
もしかして。
「……パシリ?」
自分で自分を指差しながら、古泉に聞いた。
目の前の当人は。残念そうな顔をしてこくりと首を縦に振る。

―……普段冷たく扱ってるお詫びとして、古泉くんがもういいって言うまで、あんたはパシリよ!いい?

ハルヒの声が脳内で再生される。あいつは確かにそう言っていた。
つまり、俺はしばらくこいつの舎弟って訳か?
「まじかよ……」
思わず脱力してしまい、俺は廊下の壁に手をついた。眩暈もしてきた。胃も痛く……はないか。
そんな俺に対して、古泉は冷静なものだ。全く動じる事無く、俺を見た。
「しかし、今回はまだ穏便に終わると思いますよ。ただ、あなたが僕に逆らえなくなっただけですから。僕が変な命令さえしなければ、何も起こらずに済むでしょう」
「それでどうやってこの状態を修復すればいいんだ」
ハルヒにお前と仲良しアピールでもしろってか?
あいつの仲の良いラインはどこからなんだ。そこらへんの女子同士のように、べたべたくっつけとでも言うのか。気持ちが悪い。
「いつも通りにしていましょう。それで十分です」
その「いつも通り」で仲が良くない!とチェックが入ったのにか。
それじゃ解決の糸口にすらならない気がするんだが。
「……そうだな」
だからと言って、すぐに対策なんて何も思いつかない。だから古泉の意見に同調した。
ハルヒの気が他に逸れて、自然に治ってくれたら一番いいんだけどな。
「そろそろ戻りましょうか。お手洗いにしては長話すぎました」
古泉に言われるままに、俺たちは通った通路を引き返して部室へと戻った。ハルヒに戻りが遅かった事を突っ込まれたらどう言い訳しようか考えながら。
だけど、部室の扉を開いてみれば、そこには誰もいなかった。
そして俺たちが部室を出たときと違っている点がもう一箇所ある。黒板にでかでかと「鍵をかけておきなさい!」なんて一文が書きなぐってあった。たぶんこれは俺宛のメッセージだろう。
「皆さんもうお帰りになられたようですね」
古泉が自分の鞄を持ち上げながら、僕たちも帰りましょうか、と言った。
「ああ」
そして、こいつの言うことには絶対服従らしい俺は、イエスの返事を返す。とは言っても、もう部室にいても仕方ないし、俺もさっさと自宅に帰りたいから、拒否する理由も無い。

帰り道も、古泉とたわいの無い会話をしながら帰宅した。
特に普段と何も変わらない。
もしかしたら、今回の件は特別気にするまでも無く、何も起こらずに自然と解決してしまうかもしれない。








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