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それは、いつもと変わらないような平日のとある放課後の出来事だった。

「……」

なんだかハルヒの機嫌が悪い。
見れば分かってしまうほど、それはもう一目瞭然に。
「……あの、今日はなにかあったんですか?涼宮さんが随分とご機嫌斜めのようですが」
古泉が俺に近寄って、小声で話しかけてくる。
何で俺に聞くんだ。
「知らねえよ。俺だって常にあいつを監視してるわけじゃないんだからな」
「ですが……」
知らないと言っているのに、しつこい奴だな。
どうせこの次に出てくる言葉は「涼宮さんの機嫌をとってください」なんだろ?
あいつにだって理由も無く虫の居所が悪い日もある。そんなのいちいち気にされたら、ハルヒにとっても迷惑だろうに。
それにもう子供じゃないんだ。自分の喜怒哀楽ぐらい自分で調整させればいい。
「ほっとけばいいだろ。気にしすぎなんだよお前は。それに顔が近い、離れろ」
追い払うように手を振ると、古泉が困ったように眉をハの字にして、俺から一歩離れた。

「ちょっと」 

部室に、よく通る一言が響いた。
声の主は、先ほどまで不機嫌全開だった団長様だ。
お茶を入れようとしていた朝比奈さんの動きが止まり、俺と古泉の視線がハルヒに集中する。
そして何を言い出すのかと黙って待っていたら、ハルヒの目線が何故か俺に止まった。
「キョン、あんた前々から思ってたんだけどさ……」
ここで一呼吸置いてから、ハルヒは続きを口にする。
「なんだか古泉くんに冷たくない?」
「……は?」
古泉に冷たいって、俺が?
「そうか?」
「そうよ。あんたよくあからさまに古泉くんをうっとおしがってるじゃない。同じSOS団の団員同士なんだから、仲良くしなさいよ」
いや、今でも十分仲良くしてると思うぞ。
なんだかんだ言って、同じクラスの谷口や国木田より一緒にいる回数が多いし、休日や夏休みもだいたい一緒に行動していたし……とは言っても、全部ハルヒの呼び出し絡みだが。
それでも同じ学年の男子の中では、古泉と過ごした時間が一番多いだろう。
ちらりと横目で隣に立つ古泉の方を伺って見たら、古泉の奴も苦笑しながら俺を見ていた。
古泉だって同じことを考えているだろう。これ以上どうやって仲良くしろと言うんだ。
しかし、そんな俺たちの心中なぞいざ知らず、ハルヒは飛び跳ねるように椅子から立ち上がった。
「そうだわ、いい事思いついた!」
―……ああ、すごい嫌な予感がするぜ。
俺の第六感が警告する。こういう時のハルヒの思いつきは、ろくな事じゃないと。
「キョン、あんたしばらく古泉くんの家来にでもなりなさい。普段冷たく扱ってるお詫びとして、古泉くんがもういいって言うまで、あんたはパシリよ!いい?」
「意味がわからん」
即答してしまった。
何で俺が古泉のパシリになんざならねばならんのだ。冗談じゃない。
しかしハルヒは机に足をかけて、俺を指差しながら叫んだ。
「口答えしない!決定!」
「ふざけんな!」
机を足蹴にするんじゃありません行儀が悪い!あとその体勢だとスカートの中身が見えてしまいそうだぞ!
怒鳴り返したら、苦笑したままの古泉が俺たちの間に割って入った。
「……ま、まぁまぁ、僕は今のままの関係で満足していますから。涼宮さんのお気持ちはとても嬉しいのですが」
「こういう時こそ正直になったほうがいいわよ、古泉くん。あたしが味方についてあげてるんだから」
「何言ってんだ、古泉は今のままでいいって言ってんだぞ。余計なことすんな!」
「あんたは黙ってなさい!」
勢い付くハルヒに、古泉が焦ったように俺を見た。
「あまり涼宮さんを刺激しないでください。たまたま思いついただけでしょうし、もう少し穏便に……」
「穏便にって言っ……ぁ……?」
古泉に向かって反論しようとした時、声が詰まった。
口は開いているし、確かにその音を発音しているはずなのに。俺の口はただぱくぱくと開いて、空気を吐くだけだった。
「どうしました?」
目の前にいる古泉が、逸早く俺の異変に気づいて、顔を覗き込んできた。
そして、しばらく何も喋らない俺の顔を眺めてから、ハルヒへと視線を戻す。
「すいません、涼宮さん。ちょっとお手洗いに行ってきます。親交を深めるため、彼と一緒に」
「ええ、いい心がけじゃない。やっぱりみんな仲良しがいいものね!」
古泉に手を引かれるままに、俺は部室を出た。








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