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「まずはあなたのお名前と、出身地を教えてくださいませんか?」
僕の質問に対して一呼吸おいてから、彼がぽつぽつと話し出す。
少し聞き取りづらい、という問題はあったものの、歯向かう様子も無く答えてくれた。
「ありがとうございます。ええと、次は……家族構成や、友人関係について話してもらいましょうか」
僕の言葉に続いて、家族は、父親に、母親に、妹が一人……ぽつりぽつりと語りだす。
両親もいて、妹もいるのか。親も兄弟もいない僕にとっては、羨ましい限りだ。
友人関係も特に多くもなく、少なくも無い。なんて面白みの無い返答なんだろう。

「さて、次は何をお聞きしましょうか……」
とはいっても、もうオーソドックスな質問はすべて終わってしまった。
正直言って、僕は彼自身には何の興味も無いので、これ以上個人的に聞きだしたい項目なんて何も無い。
「じゃあ、何でこんな職場に志願したのか、その理由でも聞きましょうか」
これまたオーソドックスな質問だ。もう少し捻った項目を考えておくべきだった。
「昔……テレビで、……た…………」
ぼそぼそと聞き取りづらい言葉だったが、どうやら昔メディアで放送されていた軍人に憧れて、入隊した……らしい。
男の子らしいといえばそうなのだが、なんとありがちで単純な理由なことか。そんなもので帰らぬ人になってしまっては、親も遣る瀬無いだろうに。
しかも彼の憧れていた人物、とやらの名前に、聞き覚えがあった。それも、嫌と言うほどに。
昔は前線で活躍していたものの、今は一線を退いて顧問の座についてはいる人物だ。
「よかったですね。その方、僕の側にいたらそのうち出会えるかもしれませんよ」
そう言いながらも、顧問の顔を思い出したら、気分が悪くなってきた。
その人物がまた問題がある人で……いや、その言い方は良くないか。いい意味で、昔ながらの風習を大切にする人間なんだ。
昔は軍隊に女性なんて一人もいなかったから、しょうがない。あのおかしな趣向は当時の文化の一旦なんだ。思い出したくも無い、僕自身何回声をかけられたことか……だからと言って、僕はまだ彼に付いていったことは無いが、もし個室になんざ連れ込まれたら何をされるのかなんて想像もしたくない。
その変な性癖以外は、至極まともな方なんだが。
「……ああ、そういえば体温を測らなければいけませんでしたね」
別に今思い出したわけではないが、とりあえずあの人物から思考を逸らしたかった。気分が悪い。
「腕、出してくださ」
少し彼に向けて、体温計を差し出した。
すぐさま彼がその先の銀色の部分に、ぱくりと食いつく。何をやっているんだ。
「食べ物じゃないですよ」
引っ込めようにも、噛まれてしまっているため、口内から取り出せない。
代わりに、ぺろぺろと舐めだした。少し口を開いて舌の動きを僕に見せながら、わざと音を立てるように。
「何がしたいんですか」
彼の様子がおかしい。
しつこく舐められた体温計はすっかり唾液まみれになってしまって、透明な雫を床に垂らした。こんなもの舐めても美味しくも無いだろう。
体温計を噛むのをやめた彼は、細くなった先端に、ちゅ、と唇を吸い付ける。
この様子は、欲情でもしているのか?あの薬品にこんな効果あっただろうか。今までは動物でしか試したことが無かったから、わからない。
彼の唇が、体温計を伝って僕の手にまで触れてきた。寒気がして、咄嗟に振り払う。
「……んっ」
彼が唾液で濡れた唇を手の甲で拭って、僕を見つめた。いや、僕じゃなくて、僕の持っているもの、か。
「これが欲しいんですか?」
見せ付けるように目の前に持っていくと、視線がそれに集中する。
僕は横目で監視カメラを見た。まだ、この映像も撮影されているはずだ。彼の脅迫の材料になる映像は多いほうがいい。
座ったまま、僕の片手を見つめる彼に一歩近づく。
ごくり、と唾を飲む音が聞こえてきた。
「……しょうがないですね」
彼の肩を掴んで、床に押し倒した。
それでもその目線は体温計に向かっている。どれだけこいつが気になっているんだ。
少し気に入らないが、今は良しとしよう。
押し倒した身体をうつぶせになるようにひっくり返すと、僕が上にいることもあって息苦しかったのか、両肘をついて上半身だけ起き上がった。首を捻って、横目に僕を見上げる。
その視線に笑顔を返してから、僕は彼の着ているスラックスに手をかけた。これは僕が彼のために用意したものだ。前回のことがあって、さすがに着替えが無いのは不衛生だと思って。
上は制服のままなのに、汚れた下だけ着替えている。どうせなら素直に両方とも着替えてしまえばいいのに、彼の行動は全くもって理解に苦しむ。
ゴムの部分を持って、少しずらしてあげると、すぐに緩やかな曲線が見えた。下着は着用していないのか。そういえば、下着を用意するのを忘れていた。請求してくれれば持ってきたのに。
尻の谷間に沿うように指先を伝わせ、一箇所ひっかかるすぼまりを見つけると、そこを目掛けて指先を滑らせた。
「……ひっ、う!」
突然肛門に入り込んできた異物に、彼の身体が震える。でも、濡らしてもいない僕の指では滑りが悪い。思っていた以上に穴の中は狭くて、濡れていない。男性なのだから、当然なのだが。








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