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とても不愉快だった。

彼のことを嬉しそうに話す涼宮閣下のあの表情も、彼女の言葉も、すべて気に入らない。
僕が彼のことを好きになる?それは僕自身があの男を認めて、敬意を払うをいうことか?ありえない、絶対に。


「……こんにちは」

質素な作りの扉を開いて挨拶をしても、何の返事も返ってこない。
彼はベッドの隅に隠れるように座ったまま、視線すらこちらに向けてこなかった。
反抗するのをやめたと思ったら、今度は完全無視ですか。まぁ、それもいいんじゃないか。
彼が何をしようが、僕には関係が無い。

ただ、今日はいつものように体温を測るのとは少し違うことをしなければいけない。
彼を初めてこの部屋につれてきた時のように、細い紐と注射器を持って、彼に近づく。
僕が傍に来ても、座ったまま自分のつま先を眺める彼の腕を取った。
「少しちくりとしますけど、抵抗しないでくださいね」
言われて僕を見上げ、その手に持つものが見えたのか、彼の目つきが変わる。
「お前、またっ……!」
「これで最後ですよ。日を置いて二回注射しないといけないんです」
腕を振って、僕から逃れようとする。
少なからず衰弱してしまっている身体で、僕に敵うと思っているのだろうか。大人しくしていたほうが、すぐに終わるというのに。
それでも暴れられては注射なんてできない。強引に事を進めようと思えば可能ではあるのだが、できるだけ最善の方法を取りたい。
「ちょっと大人しくしていただけませんか?別に僕はこの液体をあなたの体内にさえ入れることができれば、どこに注射したっていいんですよ」
その僕の台詞で、彼の抵抗が止む。流石に肩や背中に深々と針を突き刺されるのは嫌なのだろう。
「最初からこうしててくださいよ。面倒な人ですね」
思い切り腕に糸を巻いて締め上げると、彼の顔が苦痛に歪む。いい様だ。

彼に処置を施しながら、涼宮閣下の言葉を思い出す。
――…古泉くんも、ちゃんと向き合って話してみたら分かるわ。
じゃあ、今夜それを実行してみよう。その頃には、この薬品の効果も現れているだろうから。











いつものように使えない部下の相手をして、早めに自分の個室へと戻った。
別に急ぐ必要はなかったのだが、あの部下の相手をしているのが面倒だったのと、やはり彼の容体を早めに確認しておきたかったから。

部屋の中に入ると、具合の悪そうに身体を丸めていた。
何も言わずに近寄ってみる。もう部屋の扉の開く音で、僕が来たのは分かっているだろうから。
彼の方から、荒い息遣いが聞こえてきた。
「どうですか?」
咄嗟に顔を上げて、僕を見上げる。
その表情は熱に浮かされたようで、頬は赤く染まり目は潤んでいた。
「な、にしたんだよ……これ」
はぁ、と息を吐きながら、言葉を発する。話すのも辛そうだ。
「酔っ払ってるような感覚じゃないですか?自分で試したことはないので、あくまで予想にしかすぎませんが」
僕から視線をそらして、来ていた服の襟元を摘んで、中に空気を送り込む。熱いんだろう。
「はぁ、はぁっ……」
荒く息を吐いては飲み込む彼の姿を見ながら、考える。
まだ自分から発言できるほど意識がしっかりしているのならば、もう少し時間を置いてから戻っていた方がよかったのかもしれない。
「熱い……」
「だったら、脱いでしまえばいいんじゃないですか?この部屋の空調は、これ以上下げれません」
ぎろりと僕を睨みつける。
なんでそんなに睨む必要があるのか。僕はあなたの身体なんて興味はありませんよ。
「……そうそう、今日の朝、涼宮閣下に言われたんですよ」
涼宮閣下、と聞いて、彼の視線が多少緩やかになる。
僕の口から良く知った人物の名前が出て、少し安心でもしたんだろう。
「あなたとちゃんと向き合って話してみろって」
「……それは……どういう」
「そのままの意味でしょう。それで、僕は今日はあなたとちゃんと話してみようかと思っています。とは言っても、僕が聞くばかりでしょうけど」
頭の中までぼんやりとしてきたのか、虚ろな瞳で僕を見た。









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