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人の価値、と言うのは、その人自身のこれまでの経歴で決まると思っている。
それこそが、その人間の築き上げてきた足跡であり、基盤であるからだ。

僕は固い基盤を得るべく今まで努力をしてきた。
故に、現在の位がある。

だからこそ今まで碌な努力もしていないだろうあの男なんかに、僕の予定を狂わせられる訳にはいかない。
だいたいあんな男、突然いなくなってしまっても、周囲の人間も涼宮閣下だって、数日でその存在を忘れてしまうだろう。彼がいなくとも、代わりの人間なんていくらでもいるのだ。
所詮、下位の人間なんてそんなもの。僕らみたいに大勢から必要とされる人間とは違って、掃いて捨てられる程度の存在。

彼も、もう少し自分の価値をよく知るといい。
自分なんて、いくらでも取替えの効く部類の人間だと。





「涼宮閣下」

食堂の隅で、一人ぼんやりとフォークの先で野菜を弄っていた彼女が、座ったまま僕を見上げた。
朝食時に彼女をここで見かけるのは珍しい。
「……古泉くん」
「お隣、よろしいでしょうか?」
涼宮閣下が無言で首を縦に振るのを見て、僕は隣に腰掛けた。
自分の朝食は既に済ませていたから、コーヒーしか持って来ていない。この食堂の前を通り過ぎる時に、たまたま彼女の姿を見かけて、急いで購入してきた。彼女と会話をしようと思って。
しかし彼女は、どこか気が抜けた様子で斜め上の天井を眺めるばかり。
「どうかされたのですか?」
「んー……別に、なんでもないわ」
そうは言っているものの、なんでもないようには見えない。
「僕でよければ、話ぐらいなら聞きますよ?」
彼女に何やら悩みがあるのならば、これは僕にとって彼女との距離を縮められるチャンスだ。
真面目に彼女の顔を直視していたら、少し躊躇いながらも、話してくれた。
「…………なんかね…不思議なの」
「何がですか?」
「普段、傍にいるのが当然な奴がいきなり遠くに行っちゃってさ、最初は特になんとも思ってなかったんだけど、段々と何か心に穴が開いてしまったような感じがするの……寂しいって言うのかしら?こういうの」
「そうでしょうね。寂しいのですよ、きっと」
僕の言葉を聞いて、大きく息を吐きながらテーブルに肘をついた。両の頬を手で包んで、物思いに耽る姿は女性らしく、とても魅力的だ。
しかし、僕は彼女の仕草に胸を躍らせられる心境では無かった。原因は、先程の彼女の台詞の中にある。
「……それは、彼のことですか?」
頭の中に巣食う疑問を、口に出して聞いてみる。
もしかしたら、別の人間のことを言っているのかもしれない。そうしたら、また邪魔者が増えてしまうのだが。
「そうよ。今は古泉くんの下にいる、あのバカよ。いらない時には気がついたら傍にいるくせに、必要な時にいないんだもの。本っ当ーにつかえない奴!」
「つかえない、とおっしゃるなら、もう放っておけばいいのでは?業務上でも、私生活においても彼がそこまで役立つ人間だとは思えませんし」
そう言ってしまってから、失言だったと後悔する。
苛立って思わず本音が出てしまった。彼女の前でこんな発言をしてしまっては、マイナスのイメージしか持たれないだろう。
でも、涼宮閣下は特に怒る様子も無く、ゆっくりと視線を僕に向けた。
「古泉くんは、キョンのこと嫌いなのね」
そのはっきりとした物言いに、心臓が大きく高鳴った。
嫌い、なんて、子供じゃあるまいし。
「たしかに、あいつが何かに対して役に立つかって聞かれたら、特別役立つ訳でもないし、何かに長けてるわけでもないわ。背だって特別高い訳でも無いし、顔だって面白い程平凡だし……」
ここで一旦区切ってから、でも、と言葉を続ける。
「昔から妙に人をひきつける奴だったわ。なのに女の子にはモテなかったけどね」
あはは、と笑う。
先程まで沈んでいたのに、彼の話を始めた途端にこれか。
「古泉くんも、ちゃんと向き合って話してみたら分かるわ。きっとキョンを好きになる」
「それは、どうですかね……」
涼宮閣下の言う事にはすべてにおいて肯定的に返したかったのだが、この発言に対してだけはどうしても無理だ。
僕が彼に好意を抱くだって?絶対にありえない。










あきゅろす。
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