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食事を済ませてくれていたら嬉しかったのだが、やはり食器はそのままだった。
まぁ、散らかしていないだけ、朝食よりはましだと思おう。

「いい加減食べてくれませんか。あなたもつらいでしょうに」
話しかけても、彼は僕を恨みがましく見つめるのみ。
いい加減このやりとりにも飽きてきた。
「もしかして、今夜の食事も食べないつもりですか?さすがに丸一日絶食されるのは、少し困るんですよね」
彼がまた食べないだろうことを考えて、今回は市販のパンをいくつか買ってきた。
自分から口に入れないのなら、無理にでも捻り込んでやろうと思って。
目の前で袋を破いて、中身を彼に見せるように手に持つ。
「僕が食べさせてあげるのと、自分で食べるの、どっちがいいですか?」
こんな質問をしてはいるものの、彼が僕の与えるものを口にするとは思えない。
返事を待たずに、彼に近寄った。
それを見た彼が、座ったまま後退しようとする。できるだけ僕と距離を取りたかったらしいが、あまり広く無い密室に、手首に繋がれている鎖がある為、何をしようとも僕から逃げられる訳が無い。素直に自分から「食べる」と言えばいいのに。
肩を掴んで、床に押し倒す。そして体重をかけて、床に押し付けたまま、口元にパンを押し付けた。
「んぐっ!」
「食べて、くださいよ…!」
このまま口を閉じて、長時間粘るかと思いきや、案外と素直に口を開いた。
僕の押し付けたパンを、顔を顰めながらも口の中に入れて噛み締める。
「……おや、意外ですね。あなたがこんなにも」
「ど、けよっ……!」
僕の言葉を遮って、下から切羽詰った声が聞こえてきた。
「どけって言ってんだろ!」
「そんなに僕に見下ろされるのが嫌なんですか?あなたのような下っ端が」
「ち、がっ……うっ……!」
何か辛そうに、顔を歪める。
体調が悪いのかもしれない。思わず彼の上から降りた。
汗の滲んできた額に手を当ててみる。熱は無い。
「どうしました?気持ち悪いとか……」
もしかしたら、あの薬品は失敗だったのかもしれない。理論上では間違いは無かったはずなのだが。
やはり実際に試してみることは、大切だ。本番で間違いがあってはいけない。
「ち、違う、違うっ……」
気持ちが悪いのも、違うらしい。
熱も無いし、気持ちが悪いわけでも無い。
じゃあ一体何なんだろう。
「これ、取ってくれ、頼むから……!」
鎖のつけられた方の手首を、僕に差し出す。
取ってくれといわれても、そう簡単に外すわけにはいかない。逃げられたら困る。
「だから、どうしたんですか?理由をまず話してください」
「……くっ」
彼の顔が屈辱に歪んだ。でも、その屈辱を上回るほど、今は緊急事態らしい。
ゆっくりと、彼の唇が動いた。
「……と、トイレ…も、我慢でき……な……」
「……トイレ?」
体調が悪いのかと余計な心配をして損をした。そんな事か。
「そういえば、排泄の事を忘れていました。どうしましょうか」
この部屋には付属のお手洗いなんて、便利なものは無い。だったら僕が何か代わりになるものを設置しなければいけないのだが、どうするか。
考えをめぐらせていたら、彼の手が僕のズボンの裾を掴んだ。
「こ、のっ……ばかやろっ……!」
……馬鹿野郎?それは僕のことを指しているんだろうか。
何か方法を考えてあげようかと思っていたが、今の一言でその気が失せた。
僕の足元で、寝転がったままの彼を見下ろす。
「じゃあ、漏らせばいいんじゃないですか?どうせここには僕とあなたしかいませんし、構わないでしょう」
「はぁっ!?ふ、ざけんなっ!」
「まだ叫ぶ元気があるようで。ならずっと我慢していればいいじゃないですか。五日間」
排泄を我慢して、思うように動けないらしい彼の腹部を、軽く踏みつける。
「……うっぁ、あっ……や、めっ…!」
「こうすると余計出そうになりますか?さぁ、どこまで我慢ができるか」
ぐっ、とさらに体重をかける。
「くぅ、ああっ……あっ!」
彼が両足を擦り合わせたかと思ったら、段々とその腰の下の部分に水溜りが広がった。微かな異臭が僕の鼻をつく。
そして僕の足元の身体の力が抜けていった。
「あなたって、結構堪え性が無いんですね。情けない」
両手で顔を覆い隠して、小刻みに震える彼を見下ろしてやる。
もしかして、泣いている?僕に足蹴にされて排尿してしまった悔しさか、それともそんなところを僕に見られてしまった恥ずかしさからか。どちらかはわからない。
その両手を取って、彼の泣き顔を見るのもいいかもしれない。いい年をしてみっともなく涙を流すその顔を、至近距離で笑ってやりたかった。

でも、それはまた後での楽しみにとっておこうと思う。
彼とのこの生活も、まだ一日目だからだ。








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