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「そろそろ、起きてください」

横たわる彼の身体を軽く揺すってみる。彼が微かに呻いた。そして閉じていた瞼をうっすらと開く。
「………」
ぼんやりとした焦点の合わない瞳で、僕を見上げた。
「目、覚めました?」
笑いかけてあげると、まだ状況を理解していないのか、少しだけ起き上がって目元を擦る。次に周りを一回り見回した。
「こ、こは……」
「僕の部屋ですよ。別に怪しい場所ではありませんから、安心してください」
「あんたの部屋…………ぅ、っ?」
咄嗟に頭を押さえる。
「ああ、しばらくクラクラするかもしれないので、あまり頭を振らない方がいいですよ」
「………んっ」
頭を押さえたまま、しばしじっと床を眺める。
そして、思い出したように勢いよく僕を見上げた。
「……い、っ!?」
しかし頭が痛んだらしく、顔を歪ませる。また額に手を当てながら、眉を寄せ強い視線で僕を睨み付けた。
「な、何で俺を……こんな所に……」
「何でって……」
僕は跪いて、力の入っていない彼の腕を拾った。そして、細長い布紐をきつく結び付ける。
「言ったじゃないですか。あなたには身の程を知って頂くと」
まだ意識が全快していない彼は、何をされようとしているか分からないようだ。ただ僕の指先をじっと見つめる。
「大丈夫ですよ。あまり痛い事はしませんから」
用意していた注射器の針先のプラスチック製の蓋を外した。そして軽く中の液体を飛ばす。
「動かないで下さい」
「……は……あっ」
腕を強く掴んで、手首の血管が浮き出ている箇所を消毒液の染み込ませた綿で拭う。そして、間を置かずに針をつぷりと突き刺した。痛みに腕を引っ込めようとするのを押さえて、中身を注入する。
「つ……ぅっ……なに、をっ……」
「命には別状無いものですよ。たぶん」
針を抜いてから、紐を解く。きつく結んでいた為、少し赤くなってしまっていたが、血が通い段々と元の肌色に戻っていった。
「僕、薬物の研究にも携わってるんですよ。ほら、捕虜を捕らえた時に尋問するのに、なかなか口を開いてくれない方もいるじゃないですか。そんな人達が、正直になれるような薬を作っているんです」
詳しく彼に話しても理解出来ないだろうから、掻い摘まんで話す。
「今のはその試作品ですね。最初から捕虜に使用して何か間違いが起こってしまってはいけませんから」
「……間違い…?」
「正直になる前に喋れなくなってしまったり、ですよ。だからまずはマウスやモルモットで実験するんですけど、やはり動物相手では限界があります」
「お、前、まさか……」
彼の瞳が見開かれる。
もう想像がついているだろうけど、あえて言葉にして伝えてあげる。
「だから、あなたで実験を、ね」
「ふ、ざけっ……!」
立ち上がろうとしたのだが、足元がおぼつかない。彼にあまり動き回られては困る。
「変に暴れないでくださいよ」
仕方が無い。
彼の手を取って部屋の中央まで引きずり、予め用意していた手錠をかける。もう片方の先は鉄製の窓枠にかかっていて、長めの鎖で繋がれているため、部屋の中までならある程度の移動ができる。
「くっ……!」
足を崩して膝立ちになり、手錠を外そうと無駄な努力をする。
「じゃあ僕はそろそろ帰りますね」
「っ、は?お前っ……!」
「部屋の中のものなら自由に使ってもいいですよ。ベッドもありますし、そこで寝てくださっても構いません。あなたの様子なら、あちらに設置された監視カメラで録画してありますから大丈夫です」
僕の目線ぐらいの壁に取り付けられたカメラを見る。これでわざわざ僕が常に見張る必要も無いと言う訳だ。
「では、僕はこれで」
「ま、待てっ……!!」


最後に彼が僕に向かって手を伸ばそうとしていたが、届く訳が無い。
扉を締めて鍵をかけてから、今夜の食事を与えていなかった事に気が付く。

「……ま、一晩ぐらい大丈夫でしょう」

人は水さえあれば一週間は生きていけるらしいし。試した事は無いが。











あきゅろす。
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