[携帯モード] [URL送信]






これ程の屈辱は、久しぶりだ。

僕はデスクの隅に置かれた電話機に手を伸ばした。そちらが僕に歯向かうのならば、僕だって徹底攻勢に出るつもりだ。






僕は上の上に立つ人間達に評判が良い。常に笑顔を心掛け、権力を持った相手に対し素直な姿勢を忘れないようにしている。
僕のように若くて有能な人間は、偉い立場にいる者達にも睨まれやすいが、腰を低く保ち目上の人間を常に敬っている振りをしていれば、それなりに好意をもたれ、何かあったら面倒を見て貰える。多少のわがままなら、言っても許される訳だ。

逆に、涼宮閣下は上に敵を作るタイプだろう。
何事に対しても自分の信じた道を突き進み、周囲の意見なんて軽く弾き飛ばす。ただでさえ偉い立場に立つ人間は我が強く、プライドも高い者だらけだ。自分の意見を全く取り入れない彼女に対して、良い感情を持つ訳が無い。

まぁ、僕にしてみれば、そんな所も彼女の魅力の一つなんだが。








相手より優勢に出る為には、まず自分のテリトリーに取り込んでしまう事が大切だ。



「――おはよう、ございます」

目の前で、昨日平然と僕に歯向かった彼が悔しそうにこちらを睨み付けながら、敬礼をした。

「時間通りですね。規則をきちんと守れる方は、好感が持てます」
「ありがとうございます……」

彼はぴしりとした教科書通りの立ち方をして、僕を見上げた。
「早速ですが、お伺いしたい事があります」
「何でしょう?僕もあなたには早く仕事を覚えて欲しいですからね、喜んでお答えしますよ」
「……何で俺が、あなたの下に異動になったんですか」

ああ、やはり聞いてきたか。頭のいい人間なら、異動の理由などいちいち聞いてはこないだろうに。
彼は本当に出世できないタイプだ。

「さぁ?人事は僕の管轄外なんで、どんな意図があったかなんて見当もつきません」
僕がそう答えると、彼はまだ何か言いたそうに口を開いたが、何も発言せずに黙って俯いた。
本当は僕が人事の人間に口利きをして、彼をこちらへ異動にしてもらったのだ。上の人間とのパイプは、こんな時に役に立つ。
昨日の今日でこんな異動だ。彼も原因に薄々気付いているのだろう。
だからと言って、彼に真実を確かめる術なんて無い。
「じゃあ、まずは昨日できなかった雑用からやってもらいましょうか?」
ずっとそのままにしてあったファイルを軽く叩く。
彼は俯いたまま、無言で僕のデスクに近寄り、ファイルを持ち上げた。その表情は、屈辱に満ちている事だろう。
僕に逆らうからいけないのだ。
後悔してももう遅い。










第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!