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一度開き直ってしまえば、気持ちは楽だった。
元々間違った恋だったんだ。それが正しい道へ戻るだけ。
色々と悩んだりしながら苦心したのも、振り返ってみればいい思い出である気がする。
「……」
でも今回の件は、完全に立ち直るまでに時間がかかりそうだ。
それに、僕は機関の人間として、重要人物である彼に私情を挟みすぎた。自分の事ばかりに必死になって、第一に考えるべき存在である涼宮さんの目の前で彼に愛を語るなどと、失態も晒してしまった。
もう、この仕事は続けられない。続ける資格も無い。
携帯電話を取り出して、画面を開く。そういえば、これも機関からの支給品のひとつだった。




「えええ!?な、何言ってるのよ古泉くん!!」
学校中に響き渡りそうな大声で、涼宮さんが叫んだ。
「海外に住んでいる両親が、一緒に暮らそうって言ってくれたんです。……だから、この学校にいられるのも今日までですね」
自分でもよくこんな嘘をつけるな、と思った。思ったよりも僕の口は饒舌に動いてくれる。
涼宮さんは、がっくりと肩を落として僕を見上げた。その表情にはいつもの力強さは無い。
「何で、そんな……もう少し早めに言ってくれたら、まだ何かできたのに……」
「すいません。突然の事だったので」
落ち込んでいる彼女を見ると、僕の心の中にふつふつと罪悪感が沸き立ってくる。
何故だろうか。少し前までは、人を騙す事なんてなんでもなかったのに。
「……古泉くんは、ご両親と一緒に暮らしたいのよね?」
確認するように、聞き直された。
「はい」
笑って返事を返す。笑顔を作るのは得意だ。
涼宮さんは一回顔を伏せてから、勢い良く僕を見上げた。今度は満面の笑顔で。
「だったら止めないわ!最後の最後で辛気臭いのも嫌だし、華々しく送り出してあげる!」
放課後を楽しみにしていなさい!なんて元気良く言いながら、彼女は自分の教室へと帰っていく。
その背中を眺めていたら、胸に息苦しさを感じた。
……彼女に無理に笑わせてしまった。
いつも自分の感情に素直な彼女が表情を取り繕う姿は、見ているだけで痛々しい。


最後、これで、最後なんだ。
身の回りの荷物を鞄の中に片付けながら、一人で感傷に浸る。
いつもと変わりないクラスメイト。明日になれば、担任の教師から僕が転校したと連絡が入るだろう。
一人一人とは特別な関わりなんて無かったが、それでも一緒に学んできた知人達だ。別れも挨拶もできないのは、少しだけ申し訳ない気がする。
昨日森さんに転校したい志を伝えたら、すぐに別の人間を手配してくれると言っていた。僕がいなくなって、代わりの人間が用意される。彼らも、すぐに僕の存在なんて忘れて、新しい人間に馴染むのだろう。僕の代わりなんていくらでもいるんだ。
最後に、ありがとうございました。なんて心の中で呟きながら、僕は9組の教室を後にした。
帰宅しようとしている生徒や、部活に行こうとしている生徒とすれ違いながら、廊下を歩く。ここを通るのも、これが最後だ。
放課後を楽しみにしていなさい!と涼宮さんは言っていた。きっと驚くような何かを用意してくれているのだろう。少し楽しみだ。
今までの出来事を思い出しながら、ゆっくりと歩を進めていたら、突然腕を掴また。そしてすごい勢いで、どこかの部室に引きずり込まれる。
「うわっ……んぐ!?」
床に倒れこむと、頭部を押さえ込むように手で口を塞がれた。
何が起こったのかと腕の先の人物を見上げてみたら、僕の元想い人が腹部に馬乗りになっている。
「ハルヒから聞いたんだが、学校辞めるってどういうことだよ?」
少し苛立ったように、目を細めて僕を見下ろす。
「……んんっ」
聞かれても、口を塞がれたままでは何も答えようがない。僕はくぐもった声で呻いた。
「どうせお前の事だから、昨日ハルヒの前でやらかしたのでも気にしてんだろ?それと俺に惚れちまったから、これ以上ここにはいられないとかなんとか考えたんだろ」
……すいません、ほぼ図星です。
返事を返すまでもなかった。そんなに僕って分かりやすいだろうか。なんだか恥ずかしくなって、押さえつけられたまま、彼から視線を外す。
「別に昨日の事だってハルヒは仕返しの一種だと思ってるし、俺ももうお前の好意はそこまで嫌じゃない。俺の体質の事を気にしてるんだったら、ちゃんと病院に通って治してやる。だから、辞めるな」
彼は、一気に捲くし立てるように言い切った。










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