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ガチャリと、玄関の扉のドアノブが回された。
電気は点いているのに、あまりにも反応が無いので不安になってしまったんだろう。
その音に僕も玄関へと視線を向けた。そういえば、鍵をかけていなかった気がする。
僕の予想通り、鍵はかけられておらず、扉はあっさりと開かれる。
開かれた扉の先には見慣れない女性が立っていて、真直ぐに僕らを見た。
「…………」
視線が絡み合って、彼女は何も言わずにただ目を見開いて呆然と立ち尽くす。
そりゃそうだろう。扉を開いたら男同士で絡んでいました、なんて驚かない方が異常だ。
「……あ、ぁ…」
僕の腕の中にいる彼が、小刻みに戦慄きだした。今にも泣き出しそうな顔で彼女を見つめる。
目の前に僕がいるのに、何故別の人間を視界に入れるんだろう。目線にすら嫉妬を覚え、彼の顎を掴んで強引にこちらを向かせた。
そして、横目でちらりと彼女を見る。
「生憎ながら、彼は僕とこういう関係なんです」
見せ付けるように、彼の唇を奪った。舌を絡ませて彼の口内に唾液を流し込み、くちゃくちゃとわざと水音をたてる。あの、邪魔な女に聞かせるように。
「んっ…んぶ、っ」
いやいやと横に振る首を押さえて、彼の口の中の隅々まで探り出す。舌を絡めて、歯茎をなぞった。
開きっぱなしの彼の口の端からは唾液が溢れて、ゆっくりと顎を伝い透明な糸を作りながら床へと落ちていく。
ちゅうっと一層強く彼の口に吸い付いて、口内を刺激したことにより流れ出た唾液を吸い取った。それを飲み込みながら、彼の顎を流れる唾液の筋をべろりと舐め上げる。
「ぁ、ふっ…んっ……」
彼はもう僕にされるがままだ。蕩けたその表情を見ると、第三者に見られてしまっている事なんて、すっかり忘れてしまっているだろう。
いまだ玄関に立ち、僕らを眺める女性に視線を向ける。彼女は信じられないものでも見るように、僕らを見ていた。
「ご理解いただけましたら、さっさと退散してくださいませんか?見世物じゃあないので」
そう言うと、彼女はびくりと肩を震わせた。そして急いで身体の向きを変えて、外の暗闇に向かって走り出す。
口元を押さえながら走り去る彼女の背中を見ていたら、何とも言えない優越感を感じた。僕はあの女に勝ったんだ。彼を奪われること無く。
腕の中の存在を強く抱きしめて、そっと触れるだけの口付けを落とした。
彼女が去った後、風にでも押されたのか、ゆっくりと玄関の扉が閉まる。その音に惚けていた彼が反応して、玄関を見た。
「あっ……くっ……」
閉じた扉を見て、悔しそうに唇を噛みしめる。
なんでそんな表情をするのだろうか。
「……もしかして、僕より彼女の方がよかったんですか?」
言いたくも無い疑問を投げ掛ける。肯定されてしまっても、身を引く気など全く無いのだけど。
「ち、違うっ……お前は、勘違いしてる……」
「勘違い?」
彼は、両腕で顔を覆い隠した。僕に見られたくないからか、それとも僕を見たくないからか。
「あの子は、お前に惚れてたんだ」
え。
彼の発言に、思わず目を丸くする。
彼女が、僕に……だとしたら、僕は根本的なところから間違えていた事になる。あれ、あれ……でも僕は彼女に会った事も無いし、じゃあ昼間、校庭であった一連の行動はなんだったんだ。
「お前が、ここに住むようになって、一目見たときからお前のことが好きで……今度引っ越しちまうから、断られてもいいからどうしても気持ちを伝えたいって、言って……それを、お前は……くそっ」
顔を隠したまま、悔しそうにそう言う。
だけど僕は、彼の説明を聞いても、ああ、そうだったんですか。としか思えない。自分の事でもないし、特に親しい相手でもないのに、僕は名前も知らない人間のために情を割る事なんてできない。
でも彼は優しいから、あの走り去った女性の立場に自分を置き換えて考えてしまっているんだろう。
そんな所も彼の魅力の一つだと思っている、が。
「あんな見ず知らずの女性より、もっと僕の事を考えてくれませんか?」
顔の前で交差させた腕を取り払う。
無理に顔を合わせようとしたら、さっと視線を逸らされた。
「どんな事情があったにせよ、あなたが彼女と僕を引き合わす事に協力してしまっては、まるで遠まわしに彼女の気持ちを受け入れろと言われているような気分です」
少し、傷ついちゃいますね。
そう言いながら戯ける様に笑って見せると、眉を寄せて困ったように僕を見上げた。











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