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彼とまともに会話ができなくなり、距離を置くようになってから数日が経った。僕は、毎日のように暇さえあれば生徒会室に入り浸っている。
一人で9組の教室にいたら、今日は5組に行かないの?とか、休憩時間に自分の席にいるだなんて珍しいな、なんて声をかけられるからだ。その度に、自分の置かれた境遇を思い出して、胸が痛む。
それまで毎日のように彼の元に通って話しかけていたため、もう休憩時間を一人で過ごすのは耐えられない。でも彼の元へ向かうわけにもいかず、教室にいたらクラスメイトからは嫌な突っ込みを受ける。そうしたら僕の行き先なんて一つしかない。
「だからなんでそれで俺のところなんだ」
「いいじゃないですか。一人寂しく昼食を食べるよりは」
そう言いながら僕は購買で買ってきたパンの袋を開けた。会長はどこで購入したのか、カップラーメンを食べている。
「またインスタントですか?身体に悪いですよ」
「お前に言われたくない」
たしかに僕も基本的にはコンビニ製品で暮らしてはいるが、毎日インスタントラーメンの人よりかはマシだと思う。
「やらねぇからな」
「いりませんよ」
じっと見ていたら、カップ麺を隠された。別に物欲しそうに眺めていた訳じゃないのに。
手に持った安物のパンにぱくりと噛み付く。味気も無くあまり美味しくない。
それでも食べておかないと後に響いてしまうので、無心にパンを口の中に押し込んだ。
「お前さ、あいつとは一緒に食わないのか?」
「どなたのことですか?」
「あのお前のお仲間の、平凡な面した男だよ」
平凡な面とはなんてことを言うんだ。彼は平凡ながらにとても可愛らしい作りの顔をしている。それが分からないなんて、この男もまだまだ子供だ。
「彼とはそんな関係ではありませんから」
「なんだ、もしかして嫌われているのか?」
嫌われている。その一言に思わず咽てしまう。
「きっ、嫌われてはいませんよ!……たぶん」
「じゃあ昼飯ぐらい向こうと食えばいいだろうが」
「それができたらどんなに幸せな事でしょうね。……それに」
ぱく、と二つ目のパンを口に入れる。どんなに味わってみても、安物の購買のパンは味も薄くて美味しくない。
「……僕がここに通っていたほうが、彼も喜ぶでしょうし」
「そうか?」
会長が聞き返してきたが、僕はこの疑問には返答できなかった。
やっぱり、世の中知らないほうが良い事が多いものなんです。


昼食を食べ終わったら、もう来るなと言う会長の言葉を背中に受けながら、生徒会室を後にした。
生徒が行き交う廊下を歩いて、自分の教室へと向かう。
「あ、古泉くん」
「はい?」
聞きなれない声に呼び止められ、振り返った。僕の後ろには、彼とよく一緒にいる友人の一人が立っている。僕と目線が会うと、挨拶代わりに笑いかけられた。
しばらく彼の元に通っていなかったため、この人の顔を見るもの久しぶりだ。
「どうしたの、最近こっち来ないよね」
一歩僕に近づいて、話しかけてくる。
「はい。まぁ……」
そちらへ行かなくなった理由を聞かれても、彼の身体的な問題でもあるし、答えていいものか。むしろ僕の名誉のためにも、黙っておきたい。
どう理由をつけようかと考えていたら、何故か僕の足元から頭のてっぺんまで、値踏みするように眺めてきた。そして、にこりと笑う。
「たまには来てあげてよ。キョンも寂しがってるよ」
「そうですか…………って、え?」
ありえない一言に、思わず反応してしまう。
でも、彼は自分の話したいことはすべて言い終わってしまったらしく、踵を返して僕に背を向けた。
「じゃあね。そろそろ教室戻らないと」
「あ!ま、待ってください!」
その「寂しがってる」あたりの事情を詳しく聞きたいところだったが、惜しくもここで休憩時間終了を知らせるチャイムが鳴り響く。
僕も早く教室に戻らないと、遅刻者扱いになってしまう。
しかし、あの友人の言っていた事は本当だろうか。
彼が寂しがっているなんて。僕に会えなくて、寂しがっているだなんて………僕に会えなくて、夜も眠れないほど寂しがっているだなんて!
今から授業があるのが惜しくて仕方が無い。今すぐにでも彼に会いに行って、その身体を抱きしめてあげたいのに。












あきゅろす。
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