中学卒業の日、俺は三年間ずっと片思いしてた相手にフラれた。
俺は男、相手も男。だから仕方ないっちゃ仕方なかったのかもしれない。
でもそれは辛くて苦い経験で、俺は二度と味わいたくないと思った。
「先輩!!」
全力失踪で俺の方に向かって走ってくるこいつはバスケ部の後輩。
その後輩…環(タマキ)は、バスケ部に入部した時から異様につきまとってくる暑苦しいやつ。
可愛い子とかだったらちょっとは嬉しいし、許せるんだけどさ、俺よりも身長が12cmも高くてでっかいやつにちょこまかされても全然嬉しくない。
しかもバスケのプレーも俺より上手いんだよ。プレーの差は身長のせいだって思いこもうとしてるんだけど、いつも環のプレーに目を奪われてしまう。
環は近くまでくると膝に手をついて顔だけ上げて、やっと追い付いた。と満面の笑みを浮かべて言った。
「そんなに急いで来なくても逃げないっての」
少し皮肉を込めてそう言ってみたけど、環は気にしてないんだか気付いてないんだか、そう言われればそうですよね。と軽く流してしまった。
「……で、俺に何か用?」
「あー特にに用はないです。ただ歩ってる先輩が見えたから」
「用もないのに引き止めるな馬鹿野郎」
「じゃあ一緒に帰りましょう」
「"じゃあ"ってなんだよ"じゃあ"って!」
毎回余計な言葉が多いんだよ。
いつもいつも俺を見下すような…軽くあしらうような言い方をする小生意気な後輩。
こんなやり取りがちょっと楽しいなんてきっと思い違いだ。
「すみません。
で、一緒に帰ってくれるんですか?帰ってくれないんですか?」
ほら、またこんな言い方。
可愛さなくて憎さ倍増だ。
「勝手にすれば」
そう言って歩き出した俺の後ろで、じゃあ勝手にします。と言って笑顔で歩き出す環。
いつも素っ気ない態度をとってるのに、何でその度俺に笑いかけられるのか不思議でたまらない。
好かれるような事をした覚えなんてないし、つきまとわれるような事をした覚えはないのに……
ボーッとそんな事を考えてたしていた俺の顔の前で、俺よりも大きい手のひらがヒラヒラと動いているのが目に入った。
「先輩…聞いてました?」
そう言って顔を覗きこんでくる環にハッと我にかえって、聞いてなかった。と言うと、そうだと思いました。と返された。
「で、なんて言たんだ?」
「恋ってどんな味がすると思います?って聞きました」
それを聞いて、ツキンと胸が痛んだ。恋の味なんて…思い出したくもない。
グッと下唇を噛みしめて
「恋の味なんて…ただ苦いだけだろ」
そう言った。
だってそれしか知らない。
環はそれに苦笑いして、違いますよ。と言い切った。
「へ?」
何が違うのかさっぱり分からない。
俺が呆気にとられていると、環はもう一度…でもさっきよりは少し弱い口調で違いますと言った。
「何が違うんだよ」
「あのね、先輩。恋の味は人によって変わるんだ。俺なら苦くない…美味しい恋の味を教えてあげられると思う」
「だから?」
「…分かって下さいよ」
いつも生意気な環が、顔を情けなく歪ませて小さく呟いてるのがなんだか新鮮で、思わず笑みが溢れる。
「嘘、冗談だよ。でも不味かったら容赦なく捨てるからな」
そう言った俺に環は嬉しそうに微笑んだ。
ねぇ、あなたとの恋はどんな味がするのですか?
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