恋愛カウントダウン
「由樹!」
後ろから大声で名前を呼ばれ振り向くと、同じ中学だった総太が手を振りながら俺に駆け寄って来た。
朝から無駄にうるさい。
「なんだよ〜テンション低いなぁ。」
「…るせぇよ…お前が高いんだよ。」
「そうかぁ?これぐらい普通っしょ!」
あははは〜、と呑気に笑う総太に小さく溜め息を吐き、下らない話をしながら学校に向かった。
「そう言や、今日の放課後委員会会議があるってよ。」
「…マジか。」
教室に着いて自分の席に座ると、さっさと鞄を置いてきた総太が俺の前の席に座りながら、そう言ってきた。
「…だりぃ…。」
「だよなぁ;今日は早く帰ろうと思ってたのに、委員会とかありえねぇ…。」
「総太、今日は部活行かねぇの?」
「あー、今日はなんか新入生は来なくて良いらしい。由樹は部活入らないんだっけ?」
「特に入りたいのとかないし。」
「…何か、由樹ってクールだよな…。花の高校生だよっ!?何かこう、もっと楽しもうよっ!!」
「総太、ウザイ。」
「…(涙)」
総太との会話が一段落した時(無理やり終わらせたとも見えるが)、丁度担任が教室に入ってきたので俺達は自分の席に着いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ゆーきー!委員会行こうぜ。」
「ああ。」
放課後。
俺と総太は委員会に出席すべく、決められた教室に向かった。
入学して間もない学校だったが、どこにどんな教室があるかなんとなく把握は出来ていたのでそこまで迷うことなく目的の教室まで行けるだろう。
そんな事をぼんやり考えていたら、総太が何かに気が付いたようだ。
「…あれー?」
「どうかしたか?」
「あそこにいる女子、何だか迷ってるっぽくない?」
総太が指を指した先には、確かに迷っているように見える女子生徒がいた。
階段の近くで、ちょこまかとうろうろしていて微かにここどこ〜?なんて声も聞こえる…気がする。
「どうする?声かけてみる?」
基本的に女好きである総太がこんなチャンスを見逃すはずがない。が、極力面倒な事に関わりたくない俺は総太を引き止めようとした。
「ほっといても平…、って総太!!」
しかし総太は、俺の言葉を聞くはずもなくそそくさと、未だにうろうろしている女子生徒に近づいていった。
…何故だろう。
総太に犬の尻尾が付いてるように見えて、尚且つ思い切り振っているように見えるのは…。
「あのーもしかして迷ってたりしますか?」
「ふぇっ!?」
急に声をかけられて驚いたのか、その女子生徒はびくっ!と体を震わせながら変な声を上げて総太の方に振り返った。
…………。
……あれ?
「…ん?もしかして、ミナ?」
「へっ?」
若干涙目になっていたその女子生徒の顔を捉えた瞬間、
俺の中で
何かが…、
ざわついた。
「…もしかして…、総太…?」
「そうそうっ!」
「えーっ!本当に!?すっごい久し振り!」
何なんだ?
急に色めき立ち始めた総太と女子生徒に一瞬ポカン、と呆けてしまった。俺は完全に蚊帳の外だ。
が、このままではどうしようもないので仕方なく二人に近づいていった。
…自分の中にある騒がしいモノが何であるかは一先ず奥深くに終う。
「総太。」
無愛想な態度になってしまったのは、多少目を瞑ってもらう。
短い時間だったとはいえ、放置されれば誰だってこうなる。
「あっ!由樹…ごめんごめん;」
苦笑いを浮かべながら、総太が俺を見た。
そして、それに続くように女子生徒が俺の方を向いた。
―ドクン。
…何だよ、
―ドクン。
静まれよ…。
「由樹、こいつ小学校が一緒だった安斉ミナ。で、ミナ、こっちは中学が一緒で今も同じクラスになった神沢由樹。」
「…どーも。」
とりあえず、軽く頭だけ下げた。…もちろん女子生徒、安斉ミナの目は全く見ずに。
「しっかし、ミナは相変わらずだな(笑)普通迷うか?学校内で。」
「うるさいなー///この学校広いんだもんしょうがないじゃんっ!」
「ゆきー、コイツも委員会で3-Eに行くらしいんだけど途中まで一緒でも良い?俺ら隣の3-Dの教室だよな?」
「…ああ。」
「良いってさ〜。ミナ、俺らに感謝しろよ(笑)」
「もー!うるさいなぁ総太は!…え、と…由樹君だっけ?何か急にごめんね…?」
俺を見上げながら、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる安斉ミナを見て、また何かがざわつき始める。
…本当はこれが何なのか、薄々感づいてはいたんだけど…どうやら、認めるしかないらしい。
俺は、
彼女に、
一目惚れ、
してしまったらしい…。
まさか俺が一目惚れ、なんてするとは思わなかったけどこれは事実。だけど、これはこれで楽しい事になりそうだし?
絶対に、彼女を振り向かせてやろうじゃんか。
―今日、この瞬間にカウントダウンは始まった。
END.
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