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好きだから、傍にいたいと思ったし、好きだから抱きしめたいと思った。

それを彼に伝えたら冗談だろって笑ってこう言った。

“バーロー”

その台詞に、僕は笑うけど。



好きだという気持ちを隠す気はない。
何処でも言える。
例えば校庭のど真ん中。
例えばスクランブル交差点の中心。
例えば君の家の玄関の前。

大声で叫んでもいい。

君が好きだと叫んでも、恥ずかしくもなんともない。


「お前バッカじゃねぇーの?」


それを言ったら、こう言われた。
好きだと言われる人物が、自分であることも気付かないで。

「そんな事したら他の人間に迷惑だし言われた方も迷惑だろ。
普通はなー。そういう事は誰もいない2人っきりの時とかに言うもんじゃねぇーの?」

新一から恋愛の意見を聞けるだなんて奇跡に近い。

そんな事を考えながら呆然とする。
恋愛の話って言うのにはだいたい自分の理想って言うもんが入り交じってるもんだ。
ってことはアレか。新一は誰かにそうされたい、あるいはそうしたいのか。
そうかそうか。

「・・・フフフ。」

一瞬にして周りの空気の温度が下がった気がするが、気にしない。

「・・・おい快斗。」
「なぁにかな新一君。」

語尾にハートマークをつけてにこりと笑ってやると顔を歪められた。
・・・そこまで嫌がらなくてもいいと思うよ、俺。

「何気色悪い顔して変な笑い声発してやがる。」
「いや、良いこと思い付いたから。」
「・・・お前の良いことは俺にとって悪いこと。失礼する。」

ガタリ。

透明の容器に丸めて入れられた伝票を持った新一はスタスタとレジに向かう。
本を片手に背筋を伸ばして歩く姿は本当にキレイ。思わず見ほれてボーッと見つめる。
ってそうじゃなくて。

「ちょちょっと待てよ、新一!!」
「なんだ。良いこと思い付いたんだろ。静かな場所で作戦でも練ってろ。」

後ろから声をかけたのにこっちも向かず答えを返す。
肩を掴んで無理やりこっちを向かせる。
振り向いた顔。嫌そうな歪んだ表情。片手には本。
なにがなんでも離さない気だな・・・。

「本、歩き読みは危ないですよ」

どっかの大怪盗顔負けの手早さで本を奪うと、素早く自分の鞄に押し込んだ。
ま、その大怪盗って言うのは自分なんだけどね。

「こら、返せ泥棒。」
「泥棒じゃなくて怪盗ね。」
「警察呼ぶぞオラ。」
「こんな事で警察は動かないんじゃないの?名探偵。」
「・・・・・・。」

売り言葉に買い言葉。
先に黙り込んだのは新一。
ということで、この後の時間の所有者は俺になる。
よし、チャンス。

「さ、どこに行こうか新一。」
「・・・俺は家でのんびりと「あぁそうか俺と一緒に散歩したいか。そうかそうか。」
「・・・・・・。」

腕を引っ張って人混みを抜けていく。
少し怪しい目つきで見られるが慣れた。
どうせ双子の仲の良い兄弟としか見てないんだろ。
違うっつーの。俺達は。
・・・恋人の一歩手前の関係ってやつ。

「な、公園で休む?」
「・・・だから、俺は家で本「あぁそうかそうか。公園でゆっくり休みたいか。」
「・・・・・もう好きにしてくれ。」

諦めたのか、額を抑えて溜め息をつく。
そんなところにも見ほれてしまう俺は、きっと末期。

家の傍にある公園。
子どもの数は、いつもよりも少ない。
ちょうど、おやつの時間時。
子どもが母親に呼ばれて家に帰っていく風景が浮かんでくる。
今日はなんていい日なんだろ。
チャンスが連続で起きている。
これは神様が与えてくれた運命の瞬間なんだ。
きっと今日。俺達は幸せになれる。


「・・・本出せ。」
「(二人っきりだって言うのにまだ言うか)」

俺の心の声にも気付かず、彼は不機嫌そうに手を出した。
俺はそのキレイな細い指と白くて薄っぺらい手を眺めた。
そして、ゆっくり自分の手と重ねてギュッと握る。

「・・・違うだろ。」
「ん?何が。」
「(コイツ・・・)」

新一の口元がひくついている。
握った手もワナワナと震えていて。
あらあら。そんなギュッとしなくてもいいのに。

「・・・お前さぁ。」
「うん?」
「モテるんだからさ、こういうの止めろ。」

は?

その一言が口から零れなかったのを、誰か褒めて欲しい。
なんだって?この鈍感ニブニブ男はなんて言った?

「お前の事好きな女の子が可哀想だろ?」

そんなやつしらねぇ。
俺には新一しか見てないんだから。

「こうやって毎日のように会ったり、手繋いだり。
男と女だったらいいけどさ、男と男って・・・なぁ?」

なぁ?ってなんだよ。
男同士で恋愛しちゃいけないわけ?新一はそういうの嫌なの?
ってかそれって本心?俺のこと嫌いなの?好きじゃないの?嫌なの?

「ちょっと待て。」

また何か言おうとして口を開きかけた新一の口の前に開いてる手をかざす。
俺は怒ったぞ。今の聞いて真面目に怒った。
俺がどれだけ新一のことが好きか教えてやろうじゃないの。

「何?新一は俺と会うのが嫌なわけ?」
「いや、べつにそうは言ってないけど。」
「男と女ならいいってどういうこと?新一は男と男がラブラブしちゃいけないって言いたいの?」
「(ラブラブ・・・?)いや、別に悪いって言ってるわけじゃなくてな?」
「じゃ、何。」
「・・・快斗?」
「じゃ、なんでそんなこというの?」

きったないベンチに座って。
手繋ぎながら向き合って。
俺は情けない顔して泣きそうで。
そんな俺見て新一はビックリなんかしちゃってるしさ。
なんなんだよ。俺何かしたわけ?俺悪いことした?
新一のこと好きになっちゃいけない?大声で言っちゃいけない?
じゃ、新一の望み通りにするからさ。
静かな場所で。二人っきりのこの時間に。
何度もでも言うから。

「俺は新一が好きだよ。」

真っ正面から。
バカみたいに真剣に。
今度は言わせないよ。
“バーロー”
なんて言わせない。
冗談なんかにさせないんだから。

「好きなんだよ、新一。抱きしめたいし、ずっと傍にいたいし。
校庭のど真ん中でだって、スクランブル交差点の中心でだって、新一ん家の玄関の前でだって。
大声で 好きだ、って叫べるくらい新一のこと好きなんだよ。」

早口でまくし立てる。
新一はまだ呆然としていて。
怖くなって。
手を握りしめる。
反応はかえってこないけど、でも微かに指が動いた。
震えてるかのように、微かに。

「・・・快斗、・・・」
「冗談なんかじゃないよ、俺。本気でっ」
「・・・・お前、バカじゃねぇの?」

また、ソレ。
バカじゃねぇのってなんでさ。
人のこと好きって言ったらバカなわけ?
人のこと好きだと思ったらいけないわけ?
なんだそれ。
じゃこの世のカップル全員バカじゃん。
なんだなんだなんだ。バカバカバカ。
「校庭のど真ん中で言ったら授業妨害だし、スクランブル交差点の中心は危ないし、家の前で叫ばれても誰もいなかったら意味ないし。」

今度は新一が早口で何かを言った。
目を伏せて。
少し、怒った口調で。

「言ったろ?俺が 好き、って言われるときは、静かな場所で二人っきりの時がいいって。」

笑って。言った。
今度は優しかった。優しい笑顔だった。


「それに、お前の声、大勢の人に聞かれるなんて俺が嫌だ。」


プラスでめちゃくちゃ甘い台詞がついてきたけど。

「・・・・・新一。」
「ん?」

いつの間にか鞄から取り出されてた小説。
目線はそっち。でもいいよ。今はいいよ。
俺、どうしようもないくらい顔真っ赤になってるから。

「・・・好き。大好き。」
「うん。」
「めちゃくちゃ好きすぎてヤバイくらい好き。本当好き。マジ好き。大好き。」
「・・・うん。」

「愛してる。」
「・・・ミートゥー。」


小さな公園。錆びたシーソー。
砂のお城。風に揺れるブランコ。
チクタク時を刻む大きな時計。
汚いベンチ。二人の青年。
双子の兄弟?
恋人の一歩手前?
違う違うよ。
今は、そう。

手を繋いで、幸せそうに笑ってるばかっぷるです。





実は新一も死ぬほど好き。
080303


あきゅろす。
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