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※作品一部より抜粋





「うぅ……はぁ……」
高まり続ける熱に耐えかねて、掛け布団を剥いでみてもあまり効果はない。
このままだと、また朝方近くまで眠れないかもしれないなと熱い溜息を溢し、アーサーは夜風にでも当たって少しでも熱を逃がそうとベッドから立ち上がり、月明りに照らされた窓に向かった。
窓にかけられた鍵を外し、左右に開こうと視線を上げた時、夜空に煌々と輝く大きな月の姿が目に飛び込んできた。
綺麗な満月だなと感心するのも束の間、今迄火照っているだけだった身体に突如変化が訪れた。
「はっ、あ……くぅ……」
 これまで大人しかった胸の鼓動が、馬鹿になってしまったみたいにバクバクと荒々しく脈打ち、堪らずパジャマの胸元をギュッと握り込む。
それだけではない。
身体の熱が更に上がり、最高潮まで達したかと思うと急に脚の付け根が鋭く痛み、あまりの痛さにその場に蹲ってしまった。
「や……何だよ、これ……」
 痛みの原因を探ろうと手を伸ばすと、股の間で存在を主張する熱く硬いものに触れ、アーサーは驚いてその手を引っ込めた。
それは紛れもなく勃起した己自身だったのだが、これまでに経験したこともない上に性の知識に疎いアーサーにとって、何故自身がこんな状態になってしまっているのか理解できなかった。
「どうしよ、俺……病気なのか……?」
 痛いほどに張りつめたものはアーサーの不安を煽る要素でしかなく、このままでは死んでしまうんじゃないか、アルフレッドに病気であることが知れたら捨てられてしまうのではなどと、突拍子もない方向に考えが飛躍する。
その間も股間の昂りは一向に収まる気配を見せず、どうしていいか分からないアーサーは自分の身体の変化に怯えながら、ただ涙を流すことしかできなかった。
「アル……アル…っ…‥」
 不安に駆られ、嗚咽交じりに主人の名を呼び続けていると、コンコンと控えめに扉をノックする音がした。
「アーサー?どうしたんだい?」
 声の主は助けて欲しいと願っていた張本人だったが、今の己の姿を彼に見せる訳にはいかない。
「な…っく…何、でも……ねぇよ……」
「君、泣いてるのかい?」
「ち、ちがっ……」
「入るよ」
 精一杯の嘘はあっさりと見破られ、アルフレッドが部屋の扉を開けるとベッドにこんもりと山が出来ていた。
自分の変化を悟られないようにと、咄嗟にアーサーがベッドに潜り込んだからだ。
「アーサー?」
 すぐ傍で聞こえた彼の声に、布団に覆われた身体がピクンと跳ねる。
鼓膜を震わす柔らかな声に、布団の隙間から漂ってくるアルフレッドの匂い。
彼が近くに居るのだと意識すると安心する半面、熱に浮かされた頭がぼーっとして余計に呼吸が乱れた。
「苦しいのかい?どこか痛むとか……」
「なんで、入ってくんだよ……ばかぁ……」
「そんなの、君が心配だからに決まってるじゃないか」
「べ、つに……お前に心配されたって、嬉しくなんか……うわっ!」
 一向に姿を見せないアーサーに焦れたのか、アルフレッドは彼を包んでいた布団を力ずくで剥ぎ取ってしまった。
まさかそんな強硬手段をとられると思っていなかったアーサーが気付いた時には、ベッド脇で仁王立ちしているアルフレッドとばっちり目があってしまった。
「あ……やっ……」
 涙に濡れた目元に上気した頬、荒く繰り返される熱い吐息に僅かに震える華奢な体。
誰が見てもアーサーの様子がおかしいのは明らかで、アーサーが慌てて背を向けようと身体を捻るが、それよりも先にアルフレッドの両の手が彼の肩をしっかりと掴み、それを阻んだ。
「ひっ、ん……」
「君、顔が真っ赤じゃないか!熱でもあるんじゃ……」
「あぁっ……ふ……」
「なっ、アーサー?」
 どうやら、本格的に自分はおかしくなってしまったらしい。
肩を掴まれただけなのに、熱を測ろうと彼の手が額に触れただけなのに、くすぐったいような気持ちいいような何処かもどかしい感覚が、ぞくぞくとアーサーの背筋を駆け抜ける。
アルフレッドもこの反応には驚いたようで、身悶えるアーサーを前に目を丸くした。




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