幸せとはなんだと、少し前に問われたことを思い出していた。
別に理由もない。
聞かれたとき、答えにつまってしまったこともあってか、どこかに見え隠れするのだ。
何だよそれはって。
その日はとても強い風の吹く日で、教室の窓はガタガタと音を立てている。
休み時間の度に、野外で部活をする者が声を揃えて 文句が飛ぶ。
授業中、窓ごしに風でふわふわと飛んでいくビニールを見つけて、暫く目で追った。
その少し上では、スズメが絶え間なく鳴きながら風の吹く方へ向かおうとしている。
斜め前の生徒が先生に当てられていて、教科書を音読していた。
そろそろ自分も当てられるかと、渋々書面に目を通していると、ポケットからバイブの振動があるのがわかった。
授業はまた長い解説に入ったので、携帯画面を机の下で開く。
空からだ。
内容を確認するなり、相手も席は窓際だったことを思い出し、顔を上げた。
どうやら授業はゆっくりと進んでいるようだ。
そのまま目線を外へ移す。
彼も見ていたらしい 風に舞うビニールが、一定の高い場所でくるくる回っていた。
メールには『回ってるね 』と返した。
外を見て、笑っているメールの送り主を想像でき、また自分にも笑みが浮かぶ。
ぼんやりと、胸に温かいものを感じて、迷いもなくボタンを押していた。
『会いたい』とか、たった一言だけど。
なんでもなかったのだ。
幸せなんてものは、常にある。近すぎて、気づけていなかったんだ。
そのメールが返ってくる前に、さぼっていた板書に取り組んでいた。
タイミングも悪く、重ねて教科書の音読に指名されてしまった。仕方なく微かに鳴るバイブ音を、片手でポケットの外から押さえた。
What 幸せ?
end
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