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運悪く、紙で切った薬指。
何でもないと思っていたのに、案外治るのに時間は掛かるし面倒臭い。
例えがおかしいけど、あいつみたい。



部活で先輩ともめて、止めに入ってきた鷹山に当たって、白石には鼻で笑われて、散々ないつものこと。
鷹山とは喧嘩していた上、今回の件で最悪な状態になった。指の傷がいくつもできたよう。


鷹山の部屋まで行った豹は、ためらいながらもドアにノックする。
出てきたのは部屋が一緒の2年生だった。仕方なく彼を出てくれるように頼む。

暫くして静かにドアが開いて、しゃがんでいた豹を見下ろして歩き出した。
一瞬の出来事に驚きながら、彼の後ろに着いていく。


寮の外に出ると、少し離れたところで 壁にもたれる鷹山の姿があった。
気持ち間を置いて豹はしゃがみ、暫く沈黙を保つ。

「………」
「……いつまで怒ってんの?」
「…何が?」
「鷹山がっ!」
意味分からないよと、ため息をつかれて 豹は一瞬にして胸を握られるような痛みを覚える。

「あのいざこざなら もう解決したでしょ。そういう自分は何」
どうしてそんな言い方しかできないのか、言いたいことは山ほど募って飲み込む。

その小さい身体にはチャックが付いていて、きっと30歳くらいのオッサンが入ってるんだとか考えながら、豹は彼を見た。

「っ不安だったんだべや!」

思いもしない大きな声が出た。鷹山が驚いて豹を見る。
「またおまえに迷惑かけて、怒らせてんじゃないかとか、今度こそ嫌われたんじゃないかとかさ!」
「……豹…」

言葉が出ないまま、鷹山は俯いた。
大声を出したことにハッとして、豹はやる瀬ない思いに頭をかいた。

すると鷹山が豹に歩み寄って、向かい合わせでしゃがみ込む。
目だけでその姿を確かめると、あまりの気まずさに豹は目を反らす。

間もなくそんな彼の唇に鷹山が触れてきて、名前を呼ぶ声も塞がれ 何度かそれは繰り返された。


鷹山が離れると、
「…ずるすぎでしょ…」と漏れた。
ごめんと返して、目を合わせる。

「自分が悪いんだけどさ…。うん、ごめん。ごめんな」
鷹山は静かに豹の首に腕を回して身を寄せる。
「分からず屋っ」
そう言われて、豹の口元が緩んでいく。

「また喧嘩したらどうすんの」
豹が問うと、バカじゃん なんて返ってきて、次々文句が続いた。



いつかは治る小さい傷が、生まれて消えるその瞬間。



『治れ、なおれ』



end





あきゅろす。
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