だれにも気付かれないように張り詰めていたものが、ぷつり、と切れたんだとおもった。肩を揺らして拳を握りしめて、それでもにらむみたいに爪先を見つめる阿部の後ろ姿にオレはせつなくなる。
(つよいな、阿部は)
声をあげて泣けばいいのに。身体の中にたまったもの全部、言葉じゃなくて涙に変換してしまえば楽なのに。阿部はそれをしようとしない。全部受け止めて、ひとりきりでひっしに消化している。
(オレが、阿部のそばにいるよ!)
せめて心の中だけでもと叫んだ言葉は、だけど届くはずもなく快晴の中に消えた。頭の上の空はひどくきれいで、阿部のこぼれない涙も悲しみも、あの青が全部のみこみますようにとオレは願う。
青の世界
(オレが阿部にできることは、これくらいしかないんだ)
(…ちょっと、いやかなり、くやしいけど)