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Re-set



「好きだったよ」

どうして過去形にするの?

生暖かい錆の味を思い出す。
今はもう思い出せない知らない誰かの赤いぬるりとした液体の先にある指先の感触、どんな宝石も敵わないギラリと光る金と青の瞳。
全て私に捧げてくれた物だったのに何故?

私はあなたを欲しいと言ったのに何故あなたから手放したの?

その鋭い牙をこの胸に突き立てて、抉るように私の心を貪って欲しかったのに…何故?

子供に帰りたくなんてないの。
一度知ってしまった焼け付くような恋の味。
それが今、私を苦しめる。

私が愛した筈だった人。
記憶の崩壊は止められぬが故にその愛しい記憶、姿、声の全てが滲んで逝く。
取り戻したいのに失う事しかできない皮肉な運命なんて要らない。

「あなたの居ない世界なんて私は要らない…!」

喉元を裂く様な膨れ上がる感情を誰も居ない空に向かって放った。
少し高いトーンに戻った自分の声が彼の愛した人とはもう違うという事実を突き刺す。

戻れるならあの日々にもう一度…
地を這う醜い虫の様でもいい、みっともなくて構わない。
トラに縋り付く。振り払われたって突き放されたって絶対に放したりしない。
もし、やり直せるなら…私は選択を違わない。

(――の居ない世界なんて…)


あぁ…ぼやける、霞む。
記憶が奪われる。
もう呼ぶことも叶わないあの人の名前。容易く脆く儚く打ち砕かれた私の願う世界。

あなたの居る明日にはもう、この手は届かない。

(だからもう一度探して下さい。私の、あるいは貴女の望む物語の結末を。)



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あきゅろす。
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