何度も何度も。
繰り返し指先で辿る文字に、たしかに込められた想いを感じる。
人の性格を表すといわれる文字。それは本当だったのかと思えてしまえるほどあいつの文字はあいつそのもので、書いてある内容はなんてことない日常のことなのにあぁそうだったのか、それはよかったななんて気づけば心の内で返事をしてしまう。だが俺は想いを口にすることも言葉にすることも苦手だからそれが精一杯なんだ。
それこそそんなことは口に出さないとあいつは知らないままだけれど、手紙の返事の代わりに送る俺にしては長めのメールで伝わっていればいいなんて思う。もしも伝わっていなくてあいつが不安に思っていたら、その時はしょうがない。気恥ずかしいが言葉にしてやるんだ。
手紙を読み終えた俺は封筒から写真を取り出した。あいつはいつも2枚の便箋と1枚の写真を決まって送ってくる。だから俺も手紙を読んでから写真を見る、という決まりがいつのまにかできていて、それは今回も同じで。手紙に"綺麗な花が咲いてたんです"と書いてあったから、きっとその花の写真なんだろうと思いながら取り出した写真を見た。
しかしその予想は見事、外れていた。
花が写っていると思ったそこには、楽しそうに笑うあいつと海が写っていた。
ご丁寧に写真の裏の左上に"近所の海に友達と遊びに行った時の写真です"なんて書いてあって、俺は思わずため息をつく。
その友達は女友達なのか?
ため息と共に浮かんだその言葉にまた俺はため息をついた。そんなことを考えてしまうなんて、いつの間にか気づかないうちに俺の中にも独占欲というものが生まれてしまっていたらしい。あいつと離れてすでに半年経ったのだから人見知りをしないあいつにはたくさんの友達ができてるに決まってるだろ。それが男なのか女なのか、きっと両方同じくらいいるんだろうからこんなモヤモヤした気持ちを抱える意味はない。
と、わかっている。わかってはいるんだ。それなのにって今手の中にある写真を見ると、ダメだ。どうしようもないこの距離が嫌になる。
ほんと、どうしようもない。
でもまぁ今そんなこと思ったってしょうがないからあいつにメールを打って考えないことにした。えーっとタイトルは、手紙ありがとな、っと。
んー、と唸りながらメールを打っていると携帯がいきなり震えた。それは誰かから電話がきたからなんだけれど、電話をしてきたのは今俺がメールを打っていた相手だったわけで。せっかくメールを打ってたのにな、なんて思わず頬が綻んでしまったのを隠すように通話ボタンを押した。
『―――――――もしもし、琥太郎さん?』
「おう、俺だ。お前からの電話なんて珍しいな。今日はどうしたんだ?」
一応あいつはまだ学生なわけで。携帯代も親に払ってもらっているからあまり自分から電話をかけれないと離れる時にいっていた。なのに今かけてきたってことは何かあったのかと思うしかない。
『あ、えっと……………これといった用事があるというわけじゃないんです、けど………』
「なんだ、そうなのか」
『は、はい。あ、でも……………』
「おいおい、はっきりしないな。こうしてる間も着々と電話代はかかってるぞー」
『わ、わかってます………!』
久しぶりに聞いた月子の声は、変わっていなかった。そりゃ何年も聞いてないわけじゃないのだから変わるはずないことはわかっている。声、というより声の雰囲気が変わっていなかったことに俺は安心していた。
『こ、琥太郎さん!!』
「どうした?いきなり大きな声なんか出して」
『写真の裏……………見ました?』
写真の、裏?あー、もしかして左上以外にも何か書いてあったのか。何が書いてあるのか確認するため、メールを打つからと封筒に戻した写真をまた取り出す。だが写真の裏をみてみても左上以外には何も書いていなかった。ってことはなんだ?この左上の文字をみろってことか?みてやきもきしろ………………………………なんてことをこいつに限ってないか。それじゃあ、裏のどこのことなんだ?
「おー見たぞー。近所の海で撮ったんだろ?」
『え、えっと、そっちじゃなくって………………………写真をななめにしてみてくだ、さい』
…………………………ななめ?ななめって、ななめか。月子に言われた通り写真をななめからみてみた。そしたら、右上に文字が浮かんでいるようにみえたではないか。なんだ、どんな仕組みだこれ?
『そそそそそういうことなんで!そ、それじゃおやすみなさい!!』
「はぁ?――――――――って切れてるのか」
みつけたけど、まだ読んでないってゆーのに。相変わらずそそっかしいな。
まぁとりあえず、読むか。まさか変なことは書いてないと思うのに意味もなく緊張するのは、なんでだろうか。
どうしたもんだかと思いながらも高鳴ってしまった心臓を抑えるために深呼吸。――――――――――よし、読むか。
えっと……………"今、度………いっ……しょ、に……い…き………ましょ、う……ね"?
"今度いっしょにいきましょうね"
はっ。読み上げた文字に喜んでいる俺がいる。なんだ、こんなことか。別に電話でだっていえるってゆーのに。わざわざこんな見にくい文字で書いて、わざわざ確認の電話までしてきて。
「ばかだなぁ」
でも、そんなところがたまらない。
きっとコレを書くのにあいつはたくさん悩んだはずだ。一人机に向かいながら。
そう考えたらさっきまであったモヤモヤも何もかもが吹っ飛んだ。今はただ聞こえていた声をもう一度聞きたくなっていた。あのやわらかな声を。もし俺から電話をかけ直したらどんな風に言葉を返してくれるだろうか。きっと、照れながら聞いてくるんだろう。"いいですか?"って。そしたらもう俺のこたえは一つだけ。
それを聞いたお前は、喜んでくれるだろう?
あの真っ白な肌を赤に染めて。
そんな姿を想像でしかみれないってのに、それだけでいいて思えるんだ。今の俺にはそれで十分。十分だから。
今はそんな幸せを手に入れるために、携帯を掴んだ。
鳴らす番号は、もちろん"00"。
今はふたり離れたまま
(それでもいつも)
(幸せを感じる)
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