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「弥彦くん」



夜風にまぎれて小さく聞こえる彼女の声。このまま返事をしなかったら月子は今日もここまできてくれるかな。あ、けど今日は一段と寒いからあまりきてほしくないかも。でも月子がここにきてくれたら嬉しいとは思う。本心をいってしまえば、きてほしい。なんて毎日そんなくだらないことを思いながらベランダに出ていた。だからいつもすぐに返事をいわなかったのかな俺。



「弥彦くん?」



ほら、きた。俺の思ってることなんてしらない可愛い月子。ああやっぱりそんな薄着できてるし。



「月子」
「?」
「こっちこっち」



まるで子どもを呼ぶみたいに手を叩く。そんなことしても月子は気にもしていない。そのまま俺のところにきた小さな体を抱きしめた。



「冷えるんだからそんな薄着できちゃダメだろ?」
「だってそんな長居するつもりはなかったし……」
「そっか。でもせっかくだからさ」
「うん」
「しばらく一緒に星でもみない?」



いつもと同じ言葉を口にする。月子と一緒に暮らしてから、月子に指輪を贈ってから、いつも。そのいつもの言葉への返事の言葉もいつもと一緒だと俺、わかるよ。



「しょうがないなぁ」
「はは、ありがと」
「んーん。私も星みたかったから、いいの」
「うん。でもありがとう」
「いえいえ」
「ではでは、とりあえずくるっと廻ってくれませんか奥さん?」
「はーい」



くすくすと笑いながら腕の中にいた月子は半回転する。それは俺が月子の背中から抱きしめている状態。こっちのが2人で星をみやすいからこうするんだけど、いつも思うのは高校の時の月子は髪の毛長かったなぁなんてこと。今も長いんだけど昔ほどじゃない。それに今は家事をするためか一つに結わいてしまっている。その姿をこうして見る度に、変わったなぁって思うんだ。



「そういえば、」
「そういえば?」
「ここに住み始めた時からこうやって2人で夜空をみてたよね」
「あー、そうだな」



変わらないね、私たち。


なんて、そんなことを俺に寄りかかりながらいうのは反則だと思うよ。しかも今俺が思ってたことと全く逆のことを。けど、そっか。見た目とか季節とか変わっても俺と月子は変わっちゃいないんだ。

そっかそっか。



「なぁ月子」



呼びかけて俺は口を閉じた。先の言葉が浮かばなかったのと期待から。だってこのまま何もいわなかったら君は振り向いてくれるかもしれない。月子が俺の腕の中で俺を見上げる。ちょっと、いやかなりおいしすぎる。初めて会った時からずっとずっと可愛いって思ってたんだ。一緒に暮らしだして、結婚して、そんで今だって。君にみられるのは少し照れるけど、君が俺だけをみてくれると思うとすごく幸せで。すごく好きなんだ。だからもしも振り向いてくれたその時は、いつも幸せをくれる君に俺の幸せのしるしをあげる。


その頬に、かわりない愛を。






代わり映えのない幸福な日々

(ほら今日も)
(君への想いが)
(こんなにも愛しいよ)


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