[携帯モード] [URL送信]


「メリークリスマス、ツナ君」
「あ、うん、メリークリスマス。京子ちゃん」

 なんて暢気にこの日恒例の挨拶を交わし二人は笑い合う。しかし、片方の笑顔が崩れるのは早かった。ツナ君と呼ばれた彼、沢田綱吉は現在非常に不機嫌であった。理由を、と問われればそれは勿論、今年から加わった愉快な仲間たちの所為、という事になるのであろう。
 隠してはいるが沢田綱吉と京子ちゃんと呼ばれた彼女、笹川京子は恋人という関係にあった。それも綱吉が並盛中に入り、ダメツナと呼ばれる以前、天才少年と名高かった頃からである。
 そんな綱吉と京子は、世のカップルらしく毎年クリスマスは二人きりで過ごしていた。勿論去年までは、という注釈がつくのだが。
 いくら偽りの姿といっても、“ダメツナ”と“並中のマドンナ”がクリスマスに堂々と会っているのは頂けないだろう、綱吉と京子はそう思い、昨年のようにディナーに行く計画を取り止め、沢田家でゆっくりと過ごす事を選んだ。それが失敗だったのははっきりしていたのだが。
 もともと頭のいい二人だ、なぜそんな事にすら気付けなかったのか、後々綱吉は酷く後悔することになる、と言うより今現在がそういう状況だったのだが。そしてその答えは、久々の恋人同士の逢瀬、しかもクリスマスというイベント事だ、要は浮かれていたのだろう。家には邪魔になる居候の自称最強の赤ん坊や、暗殺者気取りの子牛、呼ばれているだろう右腕の位置に固執するストーカーっぽい忠犬、更には明らかに腹黒なセクハラ野球少年までいるのに、その事を失念する程に。
 こうして今現在に至るのだが、綱吉が京子と二人で過ごすつもりだった沢田家には、先程述べた赤ん坊を始めとする面々がいた訳だ。綱吉は自称最強の赤ん坊、リボーンに本性をばらしてはいなかった。ボンゴレのボスなんていうものを継ぐより平凡に生きたいと願っていたからなのだが。才能を見せればまず間違いなく直ぐ様跡継ぎに決定されるほどの能力を、綱吉は持っていた。そう決意していた綱吉だったが、如何せん名目上はダメツナとなっているのだ、その性格の中には女の子と話すのが苦手という項目もあった。だからこそこのままでは折角の逢瀬が台無しになってしまうのだ。勿論それは綱吉の意図するところでは全く無かった。ここで綱吉は再び後悔してしまう。普段ならば絶対に間違うはずのない選択肢。一時の逢瀬をとるか、長年の平穏をとるか――。
 綱吉はボンゴレ式クリスマスとかいう半強制参加のパーティーの中で、一人大きな溜息を吐いた。この意味を正確に把握していたのは勿論恋人である京子だけであろう。今までの無邪気な笑みという名の愛想笑いを止めた瞬間、京子以外の者は皆驚いたように綱吉を見ていたのだから。家庭教師であり最強と自負していたリボーンすらも驚き、説明を求める視線を送る中、綱吉は普段なら有り得ないにもかかわらず、綺麗にその視線を受け流す。そして、ポケットから携帯電話を取り出すと、ポチポチといくつかボタンを押した後、それを己の耳に押し当てる。誰もがそんな綱吉の行動をポカーンとしながら見、一人苦笑を浮かべる京子はある意味浮いていたのだが、それに気付ける者はいなかった。そんな中、電話が何処かに繋がったのか、綱吉は話し始める。

「あ、もしもし。ちょっと今晩そちらに伺いたいんですが……。は?空いていない?……ちょっと支配人を出して頂けますか?貴方じゃ話にならないので。綱吉からだと言って下さい。…………。あ、支配人ですか?……いえ、こちらこそいつもどうも。それで、今晩なんですけれど……あ、空いてます?よかった。さっきは断られてどうしようかと思ったんですよ。……いえいえ。知らなかったのなら仕方ないですよ。では、伺わせて頂きますね。……えぇ、いつも通り二人です。他はいつも通りお任せで。……え?予算?やだなぁ、それもいつも通りですよ。えぇ、では」

 パタン、携帯を閉じる音が静寂に支配された部屋に響く。普段とは雰囲気も何もかもが違いすぎる綱吉を見て唖然としているのは変わらない。それでも、やっと声をかけても大丈夫そうな雰囲気だ、リボーンが問い質そうと口を開こうとした、正にその瞬間。明らかにリボーンの言葉を遮ったのだろう、綱吉はある方向、正確には一人だけを見て言った。

「って事で、勝手に決めちゃったけれどいつもの所で大丈夫だったかな?」

その視線の先にいたのは、先ほどから一人全く驚いていない笹川京子。他の者には意味のわからない綱吉の言葉を、一人全て理解している存在だった。勿論周囲の視線を綱吉同様に集めるが、こちらも全く気にしていないようで、常のようににっこりと笑い答えた。

「うん。いつもの所って事は正装だよね?時間は?」
「一時間後に家の前に車を回すよ。それで大丈夫?」
「うん。じゃあ、私用意あるし帰るね?皆、今日はお招きありがとう!ツナ君、また後でね」

 満面の笑みでさっさと部屋を出てしまう彼女に何を聞けよう。だからこの場合何がどうなっているのかは綱吉に聞くしかないのだが、彼等は気付けていなかった。勿論超直感でも無ければ回避できなかったのだろうが。そして、一番被害が大きかったのは、勿論一番最初に口を開いた赤ん坊だった。最強を自負していた彼は色んな意味で自信を失う事になる。その光景を見ていた周囲の者は瞬時に理解した。彼はもう、自分たちが知る“ダメツナ”では無いのだと。そうして綱吉はその場にいた全ての者に衝撃を与えながらも何も無かったかのように正装をして家を出た。何時の間に手配をしていたのか家の前には有名人やセレブ御用達だろう、やけに胴体が長い車が待機しており、綱吉は当然とばかりにそれに乗り込んでいったのだった。


 冬休みが終わった後、クラスはおろか学校中に広がった“ダメツナ”と“並中のマドンナ”のクリスマスデートは、“ダメツナ”から一気に“天才美少年”へと変化した綱吉に黙殺されたのだが、それはまた別の話である。


Fin






遅くなりましたがクリスマス駄文。突貫で書いたら意味不明文になりました……。そのうち書き直すかも?
こっそり年内フリー。報告不要・要リンク。


08/12/26 アップ











第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!