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それはまた唐突な話ですね。
四日前と何ら変わらない言葉だった。変わったのはこの屋敷の空気だ。濁って淀んでぼやけている。どれだけ換気しても直らない。開け放した窓の向こうには青空が口をあけている(俺には馬鹿にしてるように見えた)。
ぽっかり開いた先に、丸い雲が浮かんでいた。

そんなに綺麗なのかな、これ。はるか上空に二つの影が見えた。鳶?外国でもいるものなんだろうか。あまり似合わない。

吸い寄せられたのか吸い込まれたのか。詳しい話は知らなかった。山本は結果しか言わなかったので。




−ひばり、落ちたよ。




電波に乗って届いた声は日常と同じ響きで、平らだった。そうか、落ちちゃったか。そうなっちゃったか。
自分の口から出た声も平坦だった。今から救援よこすから、待ってて。動かしちゃだめだよ。電話を切ったあとに見た窓の向こうでは青が笑っていた。食べられたのだ、こいつに。



むしろ、汚くていやになったんじゃないですか。骸はあまり興味なさそうだった。視線もちょっと見やっただけですぐ元に戻していた。今日はこれをいれますよ。手元には赤いゼラニウムがあった。花瓶にさしていく手つきは案外やわらかくてやさしい(でも知ってる、こいつ実はやさしいのだ)(今だって)。

「汚いのかな、あれ」
「知らないですけど。直しようがないくらい汚く見えたんじゃないですか?いやになるぐらいに」
「でも」

あの人なら直せそうなのに。何も悲観も楽観もせずに切り裂いて壊して塗り替えられそうなのに。世界くらい、そのぐらい簡単に変えられそうだった。軽く飛び越えそうにみえた(鳥みたいに)(或いは兎みたいに)。
たった一つ羽ばたくとか跳ねるとか、それだけで全部覆せる人だと思っていた。

「‥俺はそんなに汚いとは思わないけどなぁ」
「さっきと言ってること違いますよ」


ゼラニウムは定位置についた。窓から斜めの光が射してくる。青空の二つの影は、とうに見えなくなっていた。






獣が消えた朝




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ゼラニウム;慰め





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