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「どうせ子供っぽいですよ、俺は。榛名さんのほうがデカイし」
 普段は同学年の仲間しかいないので気にしないが、体の大きい榛名といると一年の歳の差を否応無しに感じさせられる。
「身長なんてこれからだろ。それにポジションごとに合う体型ってのもあるし」
 外見だけじゃない。今日の榛名の言葉は優しくフォローしてくれるものばかりだ。部活でも後輩にはそうなのだろうか。
「勇人、見ろよ」
 榛名の視線の先を見ると、電車が過ぎ去った高架上のホームの向こう側には桜木町の街並みが広がっていた。海沿いに広がるのは砂浜ではなく、大きなビルと遊園地だった。まず目をひくのは巨大な観覧車。その横にそりたつジェットコースター。その他にも小さなアトラクションが並び、手前には白い帆船もある。
「砂浜じゃないんですね」
「さすがに砂の上じゃ危険だからな」
「早く行きましょう、俺ジェットコースター乗りたいです!」
「あれ乗らなきゃ、男じゃねえよな」
 興奮隠しきれずエスカレーターに乗るも、栄口はホームの外に顔を向けたままだった。降り始めると、急に体が大きく傾いた。
「うわあっ」
 足元不注意で段の境目に乗っていたのだ。咄嵯に左手で手すりを掴んだが、動く手すりは傾ぐ体を止めるのには不安定だった。落ちると思った瞬間、それに抗う力に支えられていた。
「あっぶねえなぁ」
 榛名の右腕が、栄口の肩から抱きしめるように支えていた。榛名の大きく吐いた息を栄口は頭の上で感じた。
「はしゃぐのもいいけど、ちょっと気をつけろって」
「はい……」
 まわされた榛名の右腕はコートの上からでもその逞しさが十分に伝わってきた。自分とは違う太い腕。覆うように感じられる榛名の体温が、気恥ずかしくて抜け出したい衝動に駆られたが、榛名の腕は動かなかった。
 解放されたのはエスカレーターを降りてからだった。
「榛名さん、すみま……」
「そっちじゃねえって」
「あっ、そか。ありがとうございました」
「よくできました」
 榛名の手が栄口の頭を軽く二回叩いた。弟にやるのと全く同じ動作だ。誰かにやられるのは幼いときに父親にやってもらった以来だった。
「やっぱ勇人の頭って手触りいいよな。見たまんま」
「手触りってなんですか?」
「手触りは手触りだって。髪が柔らかいんだな」
「知りませんよ、そんなの」 
 もう一度頭に伸びてきた榛名の手を栄口はかいくぐった。このまま頭を撫でられてたら言葉が出なくなりそうで。そんな気がして足早に改札に向かった。



あきゅろす。
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