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(用意された友人……)
 阿部のことをそんな風に見られていたのか。阿部はそのことを知っているのだろうか。例え知っていても阿部は気にしてはいないだろう。それさえも仕事のうちだと、きっと阿部は言うに違いない。
「勇人」
 背後から名前を呼ばれて、振り返ると部屋の入り口に阿部が立っていた。今の話を聞かれていたのだろうか。
「あ……」
 何て言おうか迷っていると、阿部は勇人の元まで来た。
「授業終わったのに出てこないから。支度まだ終わってないのか」
「ごめん、ちょっと……」 
「何かあった?」
「いや、別に……」
 まだ背嚢に入れ終えてなかったのを忘れていた。勇人が慌てて残っている紙や筆をまとめていると、横から強い力に引っ張られた。
 あ、と思ったときには阿部の腕の中にいた。頭は阿部の胸に押しつけられ、背中には阿部の腕があった。
「なっ、なにすんだよっ!」
 勇人はもがいていみるが、阿部の腕はほどけない。
「泣きそうな顔してたから、なんか言われたか」
「!」
「黙ってても顔見ればわかる。一昨日だって朱央の帰り、落ち込んでたろ。隠しててもわかるから」
 勇人の耳に阿部の声が入ってくる。距離が近いせいだろうか、いつもより優しい声音をしている。
「いつでも好きに使えって言ったのに、なんでなんも言わねえんだよ。だから勇人が辛そうな顔してたら、こうすることに決めたから」
「そんな勝手に――――」
「……嫌か?」
「嫌、じゃない」
 突然の阿部の抱擁に戸惑いながらも、肯定の答えは自然に出た。驚いたけれどこうやって全身に阿部の体温を感じていると、頭の芯がぼおっとなってくる。全てをこのまま阿部に預けてしがみついてしまいたくなる。
「俺はお前のものだから、遠慮しなくていい」
「駄目だよ。それじゃ、駄目なんだ」
 阿部の腕の中で勇人は首を振った。



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