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「ゲームはこれから」



とある日曜日の昼下がり。
休日であるにも関わらず、俺は駅前まで急いで走っていた。
珍しくトレーニング目的ではなく、約束の為だ。
ようやく目的地であるファミレスが見えてくると、案の定待ち合わせていた相手は既に来ていた。
店の扉の前で、手持ちぶさたな様子で携帯を弄っている。
こちらにはまだ気付いていないようだ。
が、まさかこの期に及んで回れ右というわけにはいかない。
決まり悪い思いを抱えつつも、パタパタと彼の方に駆け寄って声を掛けた。

「悪ィ、遅れた!」
「あ、榛名さんこんにちは。…いいですよ、わざわざ走ってきてくれたみたいだし。」
「おう…マジでごめん。」

遅れてきたことへの責めの言葉のひとつもないのが、却って申し訳なかった。
それも一度目ならまだしも、彼との待ち合わせで彼よりも早く集合場所に来た例がないのだから尚更だ。
別に毎回遅刻しているわけではない。
ただ、これまで待ち合わせた中では必ず彼の方が早い。
以前、一度だけ待ち合わせ時間の何分前から待っているのか訊いてみたことがあるのだが、大体いつも10分前だとあっさり言われて驚いた。
「年上を待たせるなんて悪いじゃないですか」というのが本人の弁だ。
タカヤに爪のアカでも煎じて飲ませてやりたい。
―――まぁ、タカヤも文句は言いつつも、自分よりも遅れて待ち合わせ場所に来たことは一度もなかったけれど。

「怒ってないですよ、心配はしましたけど。」

少なくとも、自分が遅刻したときにこんな反応を返してくれなかったことは確かだ。
今目の前にいる彼に関しては、そこまでよく知っているわけではないのでなんとも言い難いが。
タイプ的に、なんとなく時間には几帳面な印象がある。

「ん、まぁとりあえず中入っか。」
「はい。」

一応、待たせたうえいつまでも外にいるのもどうかと思ったので、ファミレスのドアを開いた。
空調が効いていて、やはり外よりも快適だ。

「ふー…やっぱ外と中じゃ全然違うな。」
「ですねー。」
「お客様、お席禁煙席と喫煙席がございますが」
「「禁煙で。」」

ウェイトレスからの問いには、揃って同じ答えを返した。
アスリートたるもの、受動喫煙なんてもっての他だ。
この年頃なんて、まだまだ成長期真っ只中なのだから。
尤も、彼も学年が違うとはいえど同じ高校生であるにも関わらず、未だに線が細い方ではあるが。
まぁ、1年で劇的に身長が伸びることもないとは言えないし、本人も密かに気にしていそうなのでこの場では口にしないでおくことにする。その後はあまり待つこともなく二人掛けのテーブル席に案内され、ようやく落ち着いて腰を下ろす。
注文した料理の到着を待つ間にも、色々と話をした。
色々といっても、その殆どは野球絡みの話ではあったけれど。
何しろ学校からして違うので、共通の話題が殆どないのだ。仕方がないことだといえる。
そもそも、彼は今タカヤと同じ高校の野球部で、中学時代は戸田北とは別ブロックのシニアに在籍していたらしい。
だから、本来なら俺と彼が出逢うことはなかったのだろう。
けれど、ニシウラ?がうちの試合を観に来たり、抽選会のトイレで鉢合わせたりで高校に入ってから意外に縁があった。
今日までこうして逢っているのも、発端は2ヶ月程前に街中で偶然出逢った彼が声を掛けてきたことだったりする。
それ以来、何故かちょくちょく逢うようになっていた。
何故か、といっても誘っているのは自分の方なのだけれど。
突然、理由もなく逢いたくなるのだ。
彼は彼で、突然の呼び出しにも和かく苦笑しながら「いいですよ」なんて言ってくれるから、ついそれに甘えてしまっていた。
でも、実際どうして彼は貴重な休みに時間を割いて自分と逢うことを拒まないのだろうか。
改めて考えてみるとその理由が気になってきて、問い掛けてみた。

「…なぁ、なんでユウトは俺に付き合ってくれんの。」
「え。…んー、そうですね、」

急な話題転換と質問に、彼はちょっと困ったような顔をしていたけれど。

「阿部とは色々あったみたいですけど…俺個人としては、あなたのことは嫌いじゃないから…だと思います。」

短い時間で考えた結果なのだろう、つっかえながらもそんな答えを返してくれた。

「おう…そっか。」

そして、その答えを妙に嬉しいと感じている自分がいる。
そこで、ようやく気付いた。
何もないのに彼に逢いたくなるのは―――多分、好きだからだ。

「…榛名さんは?」
「うえっ、俺?」

気持ちを自覚した、と思ったら今度は彼の方からそう問い掛けてきて、つい柄にもなく動揺する。
でも、こちらを見つめる彼の顔はなんだかさっきよりも赤くて。
…もしかして。

「…お前のこと好きだから、っつったらどうする?」
「かっ、揶揄わないで下さいよ。」
「本気だけど、」

カマをかけてみたら、思っていた以上に反応された。
…こういうところが可愛げがあるというか、なんというか。
でも、意外に頑ななこの反応では、言葉よりもきっと。

「…こうしたら、信じるか?」
「え…」

行動で示したほうが伝わる気がしたから。
丁度いい高さにあった丸い額に、キスを落とした。
どうせ端っこの席だから、周りからは見えないだろうし。
別に自分としては誰に見られても構わなかったけれど。
彼は唇を離すと同時に、真っ赤になって俯いてしまった。

「…ず、るい、です。」
「なぁ、ユウトは俺のこと好きか?」

でも、逃がしてやるつもりなんてない。

「…内緒です。」

誤魔化そうとしたって、顔見たらすぐわかんのに。
それでも言わずにいる彼を、けれど面白いと思う。
障害は高いほど燃えるというものだ。

「ゼッテー言わせてやっからな、覚悟しとけよ。」

俺の本気のアタックに、いつまで彼は耐えられるだろうか?




「ハコニワ」の一周年記念にイヨ様にリクエストした榛栄です!デコチューする榛栄を図々しくリクエストしてしまいました。しかもサイト掲載OKということでありがとうございますm(_ _)m
これを機会に榛栄に目覚めていただけたら、幸せですww





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