道,←純
暗闇の中で薪の火だけが鮮烈に赤を放っている。すべてを飲み込み灰に変えてくれる、赤。
必死で集めた真実は、まるで神璽のようだと思った。
最後にもう一度だけそれを見た。
分厚くもなく数枚にしかならなかった資料を強く握りしめて、一束にまとめて火の中に落とす。
パチパチッパチッ
ここはひとけなんて全くないような廃工場で、加えて今は夜中。
誰も僕が此処にいるのなんて知らないだろうし、万が一に見つかったとしてももう燃やしてしまったのだから、僕が黙っていれば、もう誰も知らないまま永遠に事実も真実も灰のままだろう。
「これでよかったんだ」
誰に言った訳じゃない。敢えて対人とするならば自分自身だろうか。
灰にしてしまうことに、彼に対して申し訳ないという気持ちは湧いてこない。
だって僕に知られるというのは彼にとって不可抗力だろうし、その不可抗力の産物を僕が掴んでいていいはずもない。ましてや安寧などは宿っていないのだから。
ならば何故、こんなにも胸が痛むのだろうか。何故、何故、何故、何故、
涙が出るのだろう。
「‥‥っ、‥‥」
嗚咽の隙間に漏れた懺悔の言葉は僕の一生で彼に届くことはもうない。
「…、疲れたなあ」
早く自宅に帰ろう。
そして明日からはまたいつも通りだ。
暗闇の中で薪の火だけが鮮烈に赤を放っている。
すべてを飲み込み灰に変えてくれた、赤。
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