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※臨也が拒食症
帝人は覚醒後、だったら良いな






むせ返るような息苦しさと焼けるような喉の熱さに加え
込み上げる嘔吐感が辛い
本来ならば噛み締めれば噛み締める程美味しさが伝わる筈なのだが、まるで芋虫が口の中ではじけ色々な液体が咥内に粘り着く感覚が襲った
慌てて洗面所へと向かい胃液と先程口へ含んだ食物を吐き出す
咥内に広がる嘔吐後独特の気持ち悪さと味に更に何度も吐き出した
もう何日まともに食事を摂っていないだろうか
食べたいのに食べれない、食べたくないから食べれないと矛盾に矛盾が重なりまた矛盾に繋がる
俺は壁に手を付きふらつく体を支えながらリビングへと戻ろうとしていた、のだが、目の前には小柄な青年が立ちふさがる

「吐き出しちゃ駄目じゃないですか」

「ふ、ざ…ける、な」

帝人君の声は冷たく、暖かみが一切無い
俺は警戒心丸出しで帝人君を睨み付けた
毎日の如く食材の入ったスーパーのビニール袋片手にやってくる帝人君は己を気遣ってか、はたまた更に悪化させようとしているのか
だが、帝人君の作る料理には一切毒や異物が入っている訳では無く、一般的な普通の美味しそうな料理であるから更に質が悪い事でもあった
帝人君が己に料理を作るようになったのは何時も通りシズちゃんと池袋で喧嘩をしていた時から始まった

*

その日は暇潰しにと帝人君に会いに行く為新宿から池袋へと足を進めた
勿論シズちゃんに見付かる事も想定済みで帝人君を探していた筈だったのに、目の前に立ちはだかるシズちゃんから投げられた標識を避けれなかった
まともに食事も摂れず体力が劣っていたのであろうと直ぐにわかったが、シズちゃんの馬鹿力で投げられた標識が己の体に打ち付けられると簡単に至る所の骨は折れた
その現場に居合わせていた帝人君により俺は病院に運ばれた
のだが、その時点で重大なミスがある事に俺は気付かなかった

病院へ運ばれた俺は骨が折れたの云々の前に医師により拒食症という病名を宣告された
とくにその時驚きもしなかった俺は、元々波江と新羅から拒食症だと告げられていたからである
俺を運んでいた帝人君には強制的に聞いてもらう形となったが、帝人君もまた、驚く事はなかった

それから俺は入院を告げられるも、俺を迎えに来た波江により折れた部分の治療のみだけ済まされ自宅へと帰った
帝人君は笑顔で僕はこれで、と一言だけ告げて帰宅していった
その後波江の手を借り激痛の走る体を必死に動かしながら新宿へある自宅へと帰宅する

翌日、チャイムが鳴り玄関を開けると丁寧にも私服を纏い片手には溢れそうな食材が詰め込まれているスーパーのビニール袋を持ちやってきた帝人君が居た
普段と変わり無い笑みを浮かべせている姿に何処か嫌悪感を感じている自分が居た

「何しに来たの」

「拒食症って聞いたので、食事を食べていないのかと思い、作りに来ました」

「帰って」

「嫌です」

帝人君の手が扉に添えられたと同時に無理矢理扉を抉じ開けられる
不健康で体力も衰えた体から力が湧き出る筈もなく、いとも簡単にあっさりとあの帝人君に扉を開けられ家の中へ入り込まれてしまった
帝人君は何を言う訳でも無く一度リビングを見渡してからまるで今までここに住んでいたかのように慣れた手付きでキッチンを漁っては料理を作りはじめてしまった為病む終えず俺は大人しくソファーで待機した
暫くし、目の前に置かれたそれは一般的な和風料理、所謂味噌汁にご飯、おかず諸々といった定食のような物がだった
帝人君はどうぞ、と一言掛けキッチンへ戻っていってしまった

(さて、毒でも含まれていないか怪しいけど…
折角作ってくれたし、食べないって言うのもアレだよな
しかも、食材や料理に罪は無いし)

見れば見る程美味しそうな湯気の立つ料理に喉がこくりと鳴る
だが頭の中は拒絶を露にしているのは事実であり、食べたいけど食べたくない食べたくないけど食べないという矛盾が駆け巡っていた
すると帝人君がキッチンから戻ってきたのか、俺の隣にゆっくりと腰を下ろした

「食べないんですか?」

「食べないんじゃなくて、食べれないんだよ」

食べたらまた吐いてしまうのではないかと身体中に駆け巡る恐怖が次第と食事への拒絶へと変わり、先程まで美味しそうに見えていた料理は見た目からして毒の入った奇怪的な色の数々にしか思えなくなってきている
思わず溜息が零れた
不意に首根っこを鷲掴みされ更に己へと伸びる手の親指が咥内に押し込まれれば無理矢理口を開かせられたと思うと、一口サイズよりやや大きめな白米が押し込まれ強制的な形で飲み込む事となった

(不味い、不味い、不味い)

「ちゃんと飲み込みましたか?」

喉へと流し込んでしまった白米がまるで虫を丸呑みした気分となり、気分の悪さが襲った
はっきり言ってしまえば不味い、不味い以外言い様の無い感想である
未だ帝人君の指が咥内から抜かれる事は無く噛み千切る勢いで指に歯を立ててみたが、帝人君は一切反応を見せやしない
再び続いて咥内へと様々な食事が放り込まれ、腹は満腹だというのに無理矢理飲み込まされるの繰り返しに正直嘔吐感が拭えないでいた
漸く帝人君の指が咥内から抜かれれば俺は慌てて洗面所へと向かった
胃に押し込まれた物全てが呆気ない程に口から吐き出され、大分すっきりした気分となる
力無く俺はその場に座り込むと暫くしてから帝人君の足音が聞こえた
吐いた事を怒るのだろうか、はたまた謝ってくるのだろうか、考えても結論が出る訳でもない
いきなり前髪がぐっと引かれ上を向く形となる
視界に入ったのは先程の柔らかい無邪気な笑みとは正反対の冷め切った様な瞳と無表情であった

「な、何、帝人君」

動揺が隠しきれない
声が僅かに震えていることが己でも理解する事が出来たからだ
不意に近づく帝人君の顔を細めた双眸の視界に捕らえていれば薄い唇が己の唇へ触れた

(嗚呼、まさに極上の飴と鞭)

暫く重なる唇に漸く帝人君の意図が理解できた気がしたのは気のせいだろうか

*

毎日続くその有難いような有難くない行為に俺の体は疲れ切ってしまい食事は完全に食べられなくなり、今は液体の栄養剤が俺の食事となった
帝人君は変わらずねじが緩んだように俺の事を狂愛しているのは事実である
あの日以来から人が変わったように俺に食事を与え暴力を振り最後には口付けをと飴と鞭を繰り返していた
体が帝人君の行動についていけていない

「そんなに睨まないで下さいよ」

睨むなと言われても、睨まれて仕方ない事をしているのは帝人君本人だ
俺が無言の儘睨み続けると帝人君は不意にくつくつと喉から絞りだすような笑い声を零した
次いだ言葉に俺は自嘲してしまった

「嗚呼、これだからやめられないんですよ」
「貴方を支配しているように感じる非日常的気分」
「好きですよ、臨也さん」
「貴方には死なれたら困るんです」
「だから吐いても食べて下さい」
「いっそ俺の肉を食べますか?」

(嗚呼、狂ってる)

「愛してますよ、僕の臨也さん」

(更に狂ってるのは俺の方だ)




欠落した物を補う事
(これ即ち、愛情表現)



2010.04.28




あきゅろす。
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