不器用な二人(20000hitお礼小説)

※十年後設定でちょっと死的表現あり
 でも最後は甘いです。









ヒュンっ、と空気を切る音を最後に静寂が訪れた。

そこに有るのは仰向けに倒れ、その喉元にトンファーを押し付けられた骸。
そして、その骸にトンファーを押し付けている雲雀の姿。

「…また僕の勝ちだね。」

無表情でその台詞を溜息と共に吐き捨て、雲雀が骸の上から退く。

「これで何勝目だっけ…覚えてないけど、君は一勝。あれが最初で最後。」

変わらぬ雲雀の口調と表情に骸はギリっと奥歯を噛んだ。
雲雀の言う一勝とは、彼と初めてあった時の話。
サクラクラ病である事を利用し、幻術で彼を貶め、一方的に殴りつけた。
あれ以来、骸は雲雀に…彼を負かす程の傷を与える事が出来ずにいる。
それどころか、雲雀から傷を与えられる事も無く勝敗が決してしまうようになった。

先程のように。

言い換えれば、既に自分が雲雀の足元にも及ばない存在となってしまったという事。
傷を与える程の攻撃さえ必要なくなってしまったという事。
それを認めるのが悔しくてこうして毎日彼に勝負を挑むのだが、未だに勝てた試しがない。

最初で最後。

雲雀のその言葉が、骸の心を酷く抉った。

「調子に乗っていると寝首をかかれますよ。」
「そういうのを負け犬の遠吠えっていうんだよ。」
「眠る君の首を落とすくらいわけありません。」
「寝てる僕じゃなきゃ相手に出来ないんだ?君は。」
「馬鹿らしい。言葉のあやという物を知らないのですか。」
「あぁ、ずっと負け通しだからそれしかないんだろうと思ったのに。」
「本当に頭の弱い人ですね。」
「そういう事を言うのは僕に勝ってからにしなよ。」
「出会った当初、自分から殴りこんできたくせに、ボロボロにやられたのは誰でした?」
「……過去に縋るのはみっともないよ。」
「君だって未だに執着してるんでしょう?」
「まさか。今の君は弱すぎるもの。それこそ息の根を止められるくらいに。」
「けれど僕は生きています。残念な事にね。」
「…減らず口。」
「もともとの性分ですから。」

口を開けば常にこう。
お互いに折れる事を良しとしない二人。
周囲の人間も、この二人は決して和解する事はないであろうとつくづく思っている。
顔を合わせれば直ぐに武器が構えられ、言い合いなどは当たり前。
二人共が、自称ボンゴレ十代目の右腕のように大声で怒鳴ったりしない為、余計空気が重い。
毎日の事だとは言え、慣れる事など誰にも出来ようはずが無かった。
慣れてしまうには、この二人のかもし出す空気は余りにも恐ろしい物で。

「二人共、そこまでにして貰えるかな。」

相変わらず言い合いの続く二人を遮った一つの声。
ボンゴレ十代目である沢田綱吉、その人である。
今やこの二人を止められるのは、ボスである彼以外に他に無い。
案の定、二人の言い合いはピタリと止まって。
雲雀はにっと、口の端を持ち上げると上機嫌そうに言った。

「やぁ、沢田綱吉。今度は君が相手をしてくれるの。」

強い相手と戦える。
その思いから雲雀は自然と笑みになっていた。
先程の骸との戦いでは見せなかった顔。
それがまた骸の心を荒らしていく。

「…っ。」
「しませんよ。俺は二人を止めに来ただけですから。」

するりと雲雀の横を通り抜けて、綱吉は未だ倒れたままの骸の前に。

「骸。立てる?」

優しい笑みと共に差し出された手。
骸はそれを邪険に払うと、自らの足で立ち上がった。

「貴方の助けなど借りずとも、立ち上がれます。」
「そう。なら良いいんだ。」

ふわりと優しく笑う綱吉に、骸はまたも奥歯を噛んだ。
何故だろう。
心の奥が曇って仕方が無い。

「でもね、喧嘩をするのは良くないよ。仲良くは出来なくても、せめて喧嘩は控えて…。」
「煩い。マフィアの言う事等聞くものか。」

苛立つ心に任せて吐き出した。
それに反応したのは、綱吉ではなく雲雀。

「何言ってるのさ、君もマフィアだろう。」
「違う。僕は取引をしているだけだ。今でもマフィアと馴れ合う気は無い!」
「それ程までに気に入らないなら、出て行けばいいじゃないか。」
「?!」
「雲雀さん!!」
「でも、そうはせず、結局君はここに居座ってる。嫌いだと言っているマフィアにね。」
「……っ。」
「ねぇ、どうしてだい?骸。」
「雲雀さん、止めて下さい!!」

骸は何も言わずにその場を立ち去った。
心の中の曇りが更に酷くなった気がした。



その夜。
骸は全く飲めない酒を浴びるほど飲み、己の部屋を破壊しつくした。
いつも同じ笑顔を貼り付けて内情を悟らせる事をしない骸。
その彼が、始めて酒に走り、物に当たったのだ。
骸の部屋は本邸の離れにあり、その離れは骸以外に使っているものはいない。
結果、皮肉にも骸の暴挙に誰一人として気付くものはいなかった。
破壊が朝の…空が明らむ頃まで続いたというのに。

「………。」

不意に破壊の手を止めた骸は肩で息をしながらそのままふらりと外へ出て行った。
季節は冬。
外はとてつもなく冷えている。






「雲雀さん、起きてください!!雲雀さん!!」
「……煩い。」

朝。
雲雀はドアの叩かれる音で目を覚ました。
時計を見れば、朝の十時を過ぎた所。
いつも昼まで寝るのが常な為、機嫌は最悪。
外から聞こえる大きな綱吉の声に、雲雀は舌打つ。
しかし、尚も鳴り止まないドアの音に、忌々しく思いながらも鍵を開けた。

「煩いよ、咬み殺された…。」
「雲雀さん、骸知りませんか?!」

不機嫌な雲雀の言葉を遮って綱吉が声を荒げた。
その顔は今にも泣き出しそうな切羽詰ったもので。
まるで過去の彼を思い出させるような表情だった。

「……は?」
「骸が…何処にもいないんです!!」
「どういう事?」
「何時もの時間になっても姿を見せないから…部屋に行ってみたんです、そうしたら…。」

言い難そうに口をつぐんでしまう綱吉に雲雀は眉を顰めた。
叩き起こして置きながらだんまりなど、許すはずも無い。

「何、さっさと言いなよ。」
「……部屋が、ぐちゃぐちゃで…酒の空瓶がいくつか転がってて…。」
「……。」
「あいつ…酒、全然飲めないのに…。」

徐々に声が小さくなっていく綱吉に溜息を一つ。

「今まで寝てたんだ…僕は何も知らないよ。」
「……です、よね。昨日の今日だから…もしかしたらと思ったんですけど。」
「……。」
「失礼しました。」

表情は暗いまま、綱吉は雲雀に頭を下げてその場を去っていった。
ぼんやりとその後ろ姿を見遣って、雲雀は視線を宙へとさ迷わせる。

「……寒いと思ったら…。」

廊下の窓から見えた景色に混じる白。
音を全て吸い取るかのように静かに降り注ぎ始めた雪。
吐息までも白く染め上げる寒さに、小さく身振るう。

「……。」

暫く無言で窓の外を眺めた後、雲雀は部屋へと入った。
そしてすぐさま着替えをすませ、ある場所へと赴く。



「…ワォ。本当にぐちゃぐちゃ…。」

離れに位置する骸の部屋。
綱吉に聞いていたとはいえ、それは想像以上だった。
部屋に置かれた数少ない家具は見るも無残に砕かれている。
黒いソファーにはいくつもの大きな穴が開き、ガラステーブルは粉々。
衣類を入れていた衣装ケースは、中に入っていた衣類ごとズタズタに引き裂かれて。
壁際にあった姿見も、床一面に細かいガラス片となって散っていた。
ベッドなんて、真っ二つに折れている上、何度もトライデントを突き刺した跡がある。
床も壁も天井も…傷だらけだった。

そしてそんな床に転がっているいくつもの空き瓶。

「……飲めない奴が…四本も空けたの。」

雲雀自身、酒に弱いわけではなかったが、流石に一晩でそんなには飲みきれない。
それを酒を飲めないという骸が一晩で空けたのだとしたら…。

「相当の馬鹿だね。」

溜息を一つ吐いて、雲雀は部屋を後にした。
別に放っておいてもよかったのだけれど。
そう出来ない自分がいた。



(……積もってきたな。)

綱吉の言い分を自分なりに推測して、屋敷の中に骸は居ないと判断した。
そして今、屋敷の外を探し回っているわけなのだが…。
流石に一人では探しきれない為、少し前に一つ手を打った。
が、薄っすらと雪化粧に覆われていく景色に些か焦る。
もし骸が外にいるとして、酔いが回って倒れていたりなんかしたら。
間違いなく凍え死んでしまう。

「ヒバリ!ヒバリ!」
「……!」

己の思考に囚われていた雲雀を現実に引き戻した声。
それは一羽の小さな小鳥。
そう、雲雀が打った手とは、この小鳥の事である。
頭の良い小鳥だ、きっと力になるとの読みは大いに当たった。

「見つけたの?」
「ミツケタ!ムクロ、ムクロ、ミツケタ!」
「何処?」
「コッチ、コッチ!」

言葉を理解しているらしい小鳥は、くるりと空中で旋回した。
そしてそのまま、雲雀を先導するように飛んでいく。
雲雀も素直にそれに従い、歩みを進める。
吐き出す息が白い。






「ヒバリ!ムクロ、ムクロ!」
「……!」

どれほど歩いたろうか。
もう一面は雪で覆われた。
真っ白な出来立ての雪道には、雲雀の足跡だけが残っている。
そんな中、小鳥が止まった一本の木。
今でこそ、全て葉を落としているが、春になれば立派な花を咲かす桜の木だ。

その下に、骸はいた。
力なく桜の木に身を預けて。

「…骸。」

思わず、小さくだが声を上げて駆け寄った。
身体に触れてみれば、思ったとおり冷え切っている。
辛うじて息はあるようだが、早く身体を温めなければ。

と…。

「…何をしに来たんです…雲雀恭弥…。」
「…?!」

か細い声が、アルコールの匂いと共に雲雀に届いた。

「…起きてたの。」
「えぇ…まぁ。」
「……ならさっさと帰るよ。」
「……。」
「骸…?聞いてるの?」

黙り込む骸に、眉を顰めた。
今会話を交わしたのだ、まさか死んではいないだろう。
だが、このままでは時間の問題だ。
動く気配の無い骸に溜息を一つ吐き、抱えあげようとその脇に腰をおろした時だった。
骸の唇が、力なく言葉を紡いだのは。


「僕を…殺してはくれませんか?」


「……?!何、言ってるの。」
「昨日聞きましたよね。マフィアを憎む僕が何故…ここにいるのかを。」
「……。」
「僕は…殺されたかったんです、他の誰でもなく、君に…。」
「何を…。」
「覚えてますか、君が黒曜へ一人で乗り込んできた時の事。」

雲雀の声を骸は遮る。
いや、どうやら聞くつもりが無いようだ。
近づいて香ったアルコールの匂いに、彼が未だ酔っているのだと知った。
でなければ、彼がこうも弱気な発言をするはずが無い。
しかし、それはあくまで雲雀の見解。
それが事実かどうかは結局分からない。

「あの時から、僕は君に何かを感じていた。だから君を殺さなかった。」
「…どういう事?」
「殴りつける僕を睨む瞳に、僕は自分でも気付かぬうちに惹かれていたんです。」
「……。」
「この人が…いつか終わりをくれるのではと。」

そこまで言い終えて、骸は酷くゆっくりと雲雀に向き直った。
首はうな垂れて、表情は見えない。
骸はそっと雲雀の両腕を取り、自分の首へと宛がう。
触れた首も既に冷え切っていて、雲雀は尚、顔を顰めた。

「さぁ…力を込めてください。」
「…君に命令される筋合いはないよ。」
「クフフ…そう言わずに。こうして…間に合ったのですから。」
「何?」
「本当は一人で終わるつもりだったんです。何もかも、秘めたままで。」
「…本当に死ぬつもりだったわけ?」
「でなければ、こんな所にいるわけないでしょう。」

言って骸は弱々しく笑った。

「けれど、僕の読みは間違っていなかった…こうして最後に君が来てくれたのだから。」

途端、雲雀を大きな苛立ちが襲う。

(どうして笑っていられる?自分が死にそうな状況下で。)

無意識に、首に宛がう腕に力が込められていく。
骸の唇からヒュウっと苦しげな息が零れた。

(僕の方を見もせずに、勝手に完結して…苛々する!)

「く…は…。」
「なら、望み通り…殺してあげるよ。」
「ク…フフ…。」
「まだ笑うの。」

首を絞められて苦しくないはずが無い。
それなのに骸は笑った。
それも、本当に幸せそうに、これ以上ないくらい綺麗に。

そして…。



「好…き、で…した…恭弥…君…。」
「!!」



その言葉を最後に、骸の意識は途絶えた。

「好き…?骸が…僕を?……っ?!」

我に返った雲雀が、慌てて手を離す。
頬を叩いてみても、骸の呼吸は止まったまま。

「…くっ!!」

もう、何も考えてなんていられなかった。
骸の唇に己のそれを重ね、空気を送る。
自分で首を絞めておきながら、今更かもしれないけれど。
それにしたって、余りにも一方的じゃないか。

(言い逃げだなんて許さない。僕の気持ちはどうなるのさ!)

名前を呼んでまでの告白が最後の言葉だなんて。

「…っ、ゲホッ、ケホッ…か、は…っ!」
「!!」

送り込んだ空気が骸の肺を動かした。
再び呼吸が戻り、胸が上下する。

「……本当に馬鹿だ、君は。」

(そして僕も…。)

冷え切って、意識を失ったままの骸の身体を抱き上げる。
抱き上げて、その軽さに驚いた。
けれど今はそんな事を言っている場合ではない。
雲雀は無我夢中で屋敷へと駆け戻った。



「………。」

ふわりと香るコーヒーの匂い感じて意識が浮上する。
薄っすらと目を開ければ、見慣れない天井。
身体に感じる感触から、自分がベッドに寝かされているのだと悟る。

(………生きてる。)

確か自分は雲雀に首を絞められて終わったはず。

「目が覚めたかい?」
「?!」

聞こえた声に視線を向ければ、コーヒーを啜る雲雀が見えた。

「ここは…。」
「僕の部屋。」

脇にあるテーブルにカップを置いて雲雀がベッドへと歩み寄る。
するりと骸の頬を撫でてすっと目を細めた。

「気分はどう?」
「え…悪くは無い…です。」
「そう、なら良かった。」
「…あの、聞いてもいいですか?」
「何?」
「どうして僕は…生きているんです?」
「……簡単だよ、僕が助けたから。」
「何故?」

不安げに、しかし真っ直ぐに見つめてくる瞳に、ふっと笑みを零して。
その唇に己のそれを押し付けた。
ゆっくり唇を離せば、みるみるうちに染まる骸の頬。

「つまりはこういう事。」

察しのいい君なら分かるよね、と雲雀は尚も笑った。

「まさか…そんな。」
「事実だよ。だから勝手に死なないでね。僕も殺さないけど。」
「僕は…嫌われてるとばかり。」
「…僕、嫌いな奴はぐちゃぐちゃにするよ。」
「ボンゴレの方が…好きなのかと思ってました。」
「強いという意味ではキライじゃないけど…彼、君を狙ってるからキライ。」
「え?」

思わぬ発言に骸はきょとんとしてしまう。
そんな骸に呆れたとばかりの声で言った。

「…気付いてなかったの?」
「だって…弱くなった僕なんて…誰もいらないと思って…。」
「馬鹿だね。君は弱くないよ、ただ僕が強くなっただけ。」
「嫌味ですか、それ。」
「…今はそんな事どうだっていい。」
「君より劣る僕が毎日戦いを挑んで…迷惑でしたか?」
「まぁ、さっさと諦めては欲しかった。どうせ勝てないんだし。」
「……っ。」
「傷付けないように負かすのって、普通に咬み殺すより面倒くさいんだよ。」
「…え?」
「君には、傷をつけたくなかったから。」

それはつまり。
思いの外自分が大切にされていたという事。
傷をつけなくても負かせるのではなく、傷をつけない様に負かされていたのだ。

「だからもう、大人しく僕に守られてなよ。」
「……君って人は…。」

嬉しいのか悔しいのか分からない涙を骸はただ流した。
そして、溢れて止まらないその涙を雲雀はただ拭ってやった。






それからというもの。

「あ、骸。」
「何ですか?」
「ケーキ食べたでしょ、クリームついてる。」
「え?何処です?」
「ここだよ。」

ぺろりと骸の頬をひと舐めしてクリームを舐めとる。
固まる周囲の人間なんて二人は気にしていない。

かたや別の日。
骸が着替えやらバスタオルやらを持って廊下を歩いていて。

「あれ?骸、部屋の風呂壊れたの?」
「あぁ、ボンゴレ。そういうわけじゃないんですけど。」
「?じゃあどうしたの?」
「雲雀君と一緒にお風呂に入るんです。」
「え……。」
「じゃあ。」

その場に残ったのは固まる綱吉。



二人の間に起こった出来事を知らない周りは大いに困惑していた。
決して相容れないであろうと思われていた二人だ。
その動揺も大きい。
けれど一度交わってしまった二つの影は、恐ろしい程に混ざり合って。
何時の間にか、二人はファミリー内で誰も入り込めない程のバカップルと化していた。



END



後書き

遅ればせながら、20000hitのお礼小説です。
今回は雲骸で、アンケートの「皆が知らない内にバカップルになってて、疑問視される」というのを参考にしてみました。
バカップル要素少ないですね。
すいません、シリアスに走りました(苦笑)
雲骸はシリアスが書きやすいものでorz

因みに綱吉は骸が好きです。
雲雀はそれを知っていて、骸に近づく綱吉を常に警戒してます。
でも、骸は雲雀が綱吉を好きなんだと勘違いしてるので、綱吉に嫉妬してます。
綱吉は骸の勘違いを理解してますが、話しちゃうと二人が両思いだって気付いてしまうので、黙ってます。
…あれ?綱吉が可哀想だよ?(今更)

で、二人はお互いに素直に気持ちをいうタイプじゃないから、すれ違いまくり。
でもだからこそ、一度心が繋がったら離れられなくなる。
そんな極端さが雲骸にはあると思うのです(ゑ)

何はともあれ、20000hitありがとうございました!
このような小説で良かったら貰って行ってくださいませ。
報告は任意です。



あきゅろす。
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