*プロローグ* ―――…構わない。 問題ない。 キミが笑ってくれるなら、私友達止まりでも構わないから…。 朝7時半。乗車時刻は7時40分。 明らかに遅刻寸前。でも私はウキウキした顔して道を歩いていた。 この時間帯にはあの人が通る。 ダラダラな学ランに、たれ下がったリュックを担いだあの人が。 「あっ…」 来た。 私は前方から現れた「彼」に赤面しながら、背筋を伸ばした。 向こうにとっては通行人とでしか見てないかも知れないけれど、少しはよく見られたいから。 いつか記憶の隅に残ってほしいから。 朝日に髪が反射して、茶色の長い髪が光った。 私の胸は、その小さな仕草にドキンと高く弾んだ。 ダラダラと踵を擦って歩いてくる彼。 ああ、今日も会えた。 その幸せが胸にこみ上げてくる。 同じ日常、同じ日課。 全く縮まらないその関係。 けれど私は満足してる。 むしろ彼に対する理想が壊れないようにしてる。 少し前まで初恋もしたことなかった私が恋をしたんだ。 大切に扱いたい…。 そう、願っていたんだ。 いつも消極的でマイナス思考。 思ったことはなかなか口に出せず、周りに合わせてしまうタイプ。 私、柄園美乃里はまさにこれだった。 誰かに合わせて生きる日々。何かに執着するのではなく、普通に。中間に。個性を出さずに、常に常識にはまるよう生きてきた。 …だから、だと思う。 彼に惹かれてしまったのは。 「西高が、合コンセッティングしたらしいんだけど、美乃里行く?」 友達の笹山チハルが、私の顔を覗きこんで言った。 「えっ、合コン??」 私はひどく驚いてチハルを見た。チハルは「そうだよ」と軽く返事をする。 「行かないよ…」 私は小さくなりながら、呟いた。 先ほども言ったとおり私はこんな性格。他人とすぐ打ち解けられる性格でもない。 だから合コンとか…苦手。 「そっかぁ。だよねぇ。美乃里がそんなの行くはずないっかぁ」 嘲笑するようにチハルが言った。 チハルは可愛い。 私とは違い、自信に満ちていて、勝気で。常に正負ハッキリしているところがとても魅力的だった。 もちろんこんな彼女に私が憧れないわけない。 「でも美乃里さぁ、このまんまじゃ彼氏一生できないかもよ?」 もう1人の友達の夏菜が、机から身を乗り出して話に割り込んできた。 彼女もまた積極的で、明朗で快活。 「もう彼氏いない歴17年刻んだんでしょ?もうこのまんまじゃ高校生活は望めないかもよ?」 笑いながら夏菜が言った。それが冗談だということも私はわかっていた。 けれど、私もそんな気がしていて、少し不安げな顔をするしかなかった。 「まぁ合コンに無理やり誘うつもりじゃないから。美乃里にも似合う男がきっとひょいって現れるしさ」 チハルが慰めるように私の頭を撫でた。 「……うん」 そんな棚からボタモチのように、男がやってくるのだろうか? 「……行ってみようかな、合コン…」 「え?」 チハルと夏菜が同時に声を上げた。 「何か始めないとね」 私は無理して笑った。 誰かに気軽に話し掛けられるようになりたい。 人並みに自信を持ちたい。 叶わないかもしれないけど、始めないよりはどこかに踏み出した方がいいと思うし。 「美乃里…本気?」 「…本気」 そしていつか、「彼」に話し掛けたい。 [管理] |