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時刻は夜の十時を回る。

月のない夜空をドンカラスで飛翔したキョウヘイは、屋敷と呼んでも差し支えのない大きな家の裏手に身を潜めた。

丁度人の背丈程もある垣根の影で周囲を警戒しつつ、ライブキャスターの電源を入れる。

呼び出した人物は二人。


『キョウヘイ、無事に着いた?』


一人はいつものようにサポートに付いてくれているメイ。

そしてもう一人は、


『キョウヘイ君、準備は良い?』


まだ知り合って間もない青年。


「うん」


二人の問いにキョウヘイは頷く。


『じゃあハッキングはこっちで行うから・・・キョウヘイ君は、一分後に例のものをお願い』

『今回のルートは私が指示するけど、万が一の事もあるから・・・気をつけてね』


ライブキャスターの照明を出来るだけ落として、キョウヘイは屋敷へと目を向けた。

灯りが一切灯っていない屋敷は、まるで住人等存在しないかのようにひっそりとしている。

だがそんな静けさの中にも、確実に人の気配はあるのだ。

飾り羽が夜風に揺れるハットを深く被り直し、ゆっくりと一分を数える。

60、を数えた瞬間に、屋敷の外壁に備え付けられた監視カメラが、突如ガクン、と次々に項垂れた。

キョウヘイは走り出す。

目指すは侵入口として定めていた西の部屋。
ピッタリと閉じた窓を押せば、いとも簡単に開く。

オートロック式の鍵は、今や何の意味も持たない。

するりと身を滑らせたキョウヘイは、『怪盗K』として行動を開始した。





事の始まりは、バーで知り合った青年、カナデから渡された封筒だった。

彼の言葉通りにNに手渡せば、中の手紙を開いた彼が読み進める内に目を見開いていく。

何が書かれていたのかキョウヘイには知りようがなかったが、手紙を閉じた彼がすぐにキョウヘイを見て、『怪盗K』絡みの事であるのを悟った。


「キョウヘイ、キミに『怪盗K』として動いてほしい家がある」


キョウヘイは頷いた。

『怪盗K』として、それは即ちポケモンにあまり良くしていない人物からのポケモンの奪取。

いつも通りに予告状を出して三日時を待つのか、と思いきや、


「ただ、今回は予告状を出さず、明日人知れず行ってほしい」

「え?予告状を出さずに、ですか?」


『怪盗K』の特徴とも言える予告状は出さないとの言葉。


「この家は特殊だから、予告状を出すとほぼ確実にキミは捕らえられてしまう。そんな危険は冒さず、秘密裏に盗んだ方が良い」


キョウヘイは身を震わせた。

今までNがそう断言した事はない。

それだけ今度の目標は捕まるリスクが高いという事。


「あと、一人キミをサポートしてくれる人物がいる。そもそも、彼がいないとどうにもならないから」


翌日、引き合わされたのは、初対面の青年だった。


「僕はヒビキ。今回は危険な場所への侵入になるのに、カナデの為に引き受けてくれてありがとう」


青年ヒビキはカナデと同じバーで働く店員で、彼とは親しい仲でもあるらしい。

彼の「カナデの為に」という言葉に、キョウヘイは首を傾ける。


「今回のって、カナデさんの家なんですか?」


何となくそう思いついて尋ねれば、ヒビキは苦虫を噛んだような表情を浮かべ。


「・・・うん、彼の実家。そして警視総監の屋敷でもある」

「え!?」


警視総監といえば正義の味方たる警察のトップだ。

カナデの家でもあるというし、何故盗みに入る必要があるのか。


「警視総監───カナデのお父さんは、色々と黒い噂がある人なんだ。そんなお父さんに嫌気が差してカナデは高校時代に家出したんだけど、その時大事にしてた手持ちを一体奪われて・・・」


カナデは今、あのバーに隠れ住み、父親やその部下達に見つからないよう極力外出を控え、細心の注意を払っているらしい。

だがもし見つかった時、その一体を盾にされれば従わざるを得ない。


「僕はカナデの意思を尊重したい。だから、その一体を取り戻して少しでも連れ戻されるリスクを抑えたいんだ」


そう話してくれたヒビキには、カナデを守りたいという確かな強い意志があった。


「その為に君を危険な目に合わせるけど・・・」

「気にしないでください。そういうのは『怪盗K』として覚悟している事ですから」


キョウヘイはヒビキの事もカナデの事も良くは知らない。

だが見る限り彼らは悪い人ではなさそうだし、離れ離れになってしまった手持ちを主人の元へ返してあげたいという気持ちが芽生えていた。


「絶対に、手持ちを取り戻しましょう」





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