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》朝はいつも早い

朝、目を覚ますと9時を回っていた。
学校もとっくにはじまっている。昨日も行っていないから、行かないと単位が足りなくなってしまう。
リビングに行くと、姉がお早うとテーブルの上にたっぷりのコーヒーを置いた。
「はちみつ入り」
はちみつが入ったコーヒーに口をつけると、とりあえず学校に行こうと思った。
それから杉田さんの家に行く。
今日、帰らないから
あ、そう
うん、
姉妹のくせに気まずい沈黙、堪え難い。
あたしは息をつくと、学校へ行くよ、と姉を見上げた。
いってらっしゃい、姉はソファーに置いてあったバッグを手に取る。
お姉ちゃんもいってらっしゃい、
大学に行くんだよねという言葉はすれすれで飲み込んだ。

重い足取りで、見据えた道路の先に、煙草の自販機が置いてあった。
キャスターマイルド、確か杉田さんはそれを吸っていた。
一番下の段、右から5コ目、あたしは三百円を入れるとキャスターマイルドのボタンを押す。
十円のおつりをポケットに入れ、誰も人のいない通りを進んだ。
朝と昼の狭間、涼しい空気に、そっと睡魔が襲う。
学校へ向かう駅への道則が、ひどく遠くに感じた。


あたしには何がなんだかわからなかった。
夢を見ているのだと思った、そう思い込もうとした。
そんなあたしに彼は言った。
あたしは涙を流す、泣くな、泣くな、泣くな、
涙を流すのはいけない、そこに染まってしまう、夢にするのなら泣いてはいけない。
あたしの肩を包む杉田さんの香りは。
風呂場の香り、
「現実だ、それは」


いつのまにか、杉田さんがあたしの横に座って、あたしの顔を覗き込んでいた。
あたしが目を開けると、杉田さんは顔をぴくりともさせずに、おはよう、と言った。
おはようございます。
学校行ったのか?
行きませんでした、眠くて。
それでここに?
すみません。
駆け込み部屋、杉田さんは嘲るようにふっと笑った。

寝室を出ていく杉田さんをあたしは追い掛ける。
窓際に立つといつものごとく窓を開けて、煙草に火をつける。
いつのまにかTシャツとジーンズのラフな服装に着替えていた。
杉田さん、
あたしが呼ぶと、こちらを振り返りもせずに、あぁと声を発した。

煙草を買ってきました
ひとつだけ?
はい、ふたつがよかったですか?
いやいいよ、ひとつで

あたしが差し出した煙草の箱を、杉田さんはにっこりと笑って受け取った。
杉田さんの素直な笑いを初めて見た気がして、あたしの中に嬉しさが充満する。





あきゅろす。
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