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》会いたいから

目を覚ますと、杉田さんはもういなかった。
リビングの時計は11時を指している。
今日は平日で、学校で、これから行くのはかったるい。
冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出すと、コップに注ぎ口をつける。

杉田さんは、あたしの三回目の訪問の夜に言った。
いつでもくればいい。
そうして合鍵をくれた。

四回目の夜、Tシャツとジャージ、服を二、三着とジーパン一本を鞄に入れて持ってきた。
もちろん下着も。
貰った合鍵は使わず、制服のまま、インターフォンの向こうに杉田さんが出るのを待った。
杉田さんは荷物を見て、遺書は書いたのか、と自嘲気味に笑った。

それを杉田さん宅に置いたまま、あたしは自由に出入りを繰り返す。
未だ、家出の理由は聞かれない。


そうだ、携帯。
かれこれニ、三日は電源を切りっぱなしだ。
メールを問い合わせしてみる、何もない。
受信箱の一番上のメールは、姉からのメールだった。
"次はいつ帰ってくるの?"
開いてすぐに、気分が悪くなって電源を切る。


きのう、のこと。
今日も来たのか。
杉田さんは家でテレビを見るあたしを見て、そう言った。
はい、シチュー作りました。
少しの間、杉田さんはキッチンに目を向けていた。

毒なんか、
入ってませんよ。
わかってるよ。
なんですか、本当に入れますよ。

夜中三時過ぎに、杉田さんに起こされる。
杉田さんに抱き締められて、自分が汗だくだということに気付いた。

嫌な夢を見ていた気がします。
そうだろう。
うなされてました?
ああ。
覚えていないんです。

きっと同じ夢見てるんです、
いつも自分の声で起きるんです、
なのに内容は覚えてないんです、
ただ嫌な夢だというのはわかるんです、


あたしは呆けていて、
杉田さんは抱き付いたまま離れなかった。
ああ、どうしよう、この人が愛しい。
あたしは抱き付いたままの杉田さんの背中に腕を回す。
泣きたいと思った。
同時に、この愛しさは嘘だと理解する。


杉田さん、何を見ているの?
あたしを通して何を見ているの?
その問いに杉田さんは答えない。
ふっと、杉田さんの力が抜ける。
「ごめん」
ぼそりと呟き、部屋を出て行った。

部屋の静寂、4時、
杉田さんが帰ってくるまでに、ここを出て行こうと思った。





あきゅろす。
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