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》悲しみはいつも


煙草…美味しいんですか?
あたしがそう聞くと杉田さんは、まぁな、と答えた。
まずくもないし美味しくもない。

杉田さんはあたしに煙がかからないように窓の外に息を吐いた。
あたしはリビングのソファーに腰掛けていて、杉田さんは窓を開けて窓際で煙草をふかしていた。

これはな、バニラ味なんだってさ。
…はぁ。
だから少し匂いは甘いんだ。

杉田さんはふぅと煙を吐き出すと、窓のサンで煙草をもみ消し、吸い殻をテーブルに置いてあった灰皿に入れた。
あたしはその動作を追うようにし目線を動かした。

「なに、吸ってみたいの?」
視線に気づいたのか杉田さんはあたしを振り返り見てそう言った。
あたしは頭を左右に振る。

正直煙草は気になっていた。
どのような味なんだろう、吸ってみたいという願望はあったけれど、まだ成人していないし、抵抗感もあった。


ソファーから立ち上がる。
夕飯作ったんですけど食べますか?
あぁ食わしてくれ。
はい。

今日は麻婆茄子を作った。中華スープもつけた。
それを杉田さんは美味しいと食してくれて、あたしは少しだけ料理できて良かった、と思った。


次の日、久しぶりに学校へ行った。
登校拒否にされているあたしが教室に足をいれると、教室の空気が一瞬固まり、こち
らを見た。
心地悪い視線だった。
学校、来なきゃよかった、と心底後悔した。
お母さんは行きたくないなら学校やめればいい、と言ったが、私の小さいプライドがそれを拒んでいた。

自分の席につくなり、固まっていたクラスメートは解凍されて、教室にはいつもの賑やかさを取り戻していた。
その中から何人かからの視線。
教室入ってきたのはいいけれど、これが嫌だ。
視界の端からこっちにやってくる女子が見えた。
その女子は山本美穂という名前で多分このクラスの中心的にいるような子だった。

山本美穂は私の横に立つと、久しぶりだね、と笑ってみせた。
その笑顔は愛想笑いにしか見えない。
それはあたしが僻んでいるだけだからか、よくわからないが、山本美穂のその笑い方が気にくわない。

何?
あたしがそう問うと、山本美穂は笑顔を崩さずに首を傾げた。

特に用はないんだけどね、最近来てなかったから心配で。具合悪かったの?てか
、今も顔色悪いよ?保健室行く?ついていくよ

保健室…
あたしはひとりでいくよ、と言い、バッグを机にさげると教室を出て行く。
山本美穂はそんなあたしをどういう目で見ていたのだろう。
悪気のない迷惑。
それがあたしには嫌に思えてたまらなかった。

職員室で先生に了解をもらうと保健室に向かい、無駄に静かな部屋の中でベッドに寝ころぶ。
保健室は静かで、白い。

あたしは目を瞑ると、山本美穂の顔が過ぎる。
なんて学校という場所はこうも面倒なのだろう。
杉田さんの家に帰りたいと思った。


寝ていたらもう放課後になっていた。
どれだけ寝ていたのだろう。
壁にかかった時計の針は4時前をさしていた。



杉田さんが帰ってきたのは8時過ぎだった。
あたしはオムライスを作って杉田さんの帰りを待つ。

夕飯のあと、杉田さんはいつものように窓を開け、夜景を背に煙草を吸っていた。
あたしは杉田さんを呼んで窓際へ近づいていく。
なんだ、とあたしを見たが、杉田さんはいつものように無表情で、顔からはなんの感情も見ることができなかった。

煙草、吸わせてください。

あたしがそういうと杉田さんは眉をひそめた。
昨日は吸わないと言ったじゃないか。
今日は吸いたい気分なんです。

そういうと杉田さんは煙草を一本取り出すとあたしに突き出した。
あたしは杉田さんの見様見真似で煙草を口に加えて、ライターで火をつけ、思い切り吸い込む。
煙が肺を充満してあたしはむせて、咳と共に口から煙が出て夜空に上っていく。

だからいわんこっちゃない。
そういうふうに杉田さんはあたしを見ていた。
あたしはめげずにもう一度吸い込む。
それを繰り返し私は一本あっという間に吸ってしまった。

不味い。
あたしがそう呟くと、杉田さんは馬鹿にするように笑って。
笑われたことが悔しくて、私は吸い殻を灰皿にいれると、もう一本と言った。

すこしでも杉田さんに追いつきたかった。
学校の一件もあったから気が荒れていたのかもしれない。

杉田さんはあたしの頭をポンポン叩く。
初めての煙草は悔しさでいっぱいだった。




あきゅろす。
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