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小路


あなたと足並みを揃えて歩いた、あの小路がなくなるらしい。区画整理をする為にその小路は潰されて、周囲の家も崩され、そこに大通りができると、人づてに聞いた。
私は少し悲しくなって、その小路をゆっくり歩くことにした。小路の入口にあった自動販売機で買った、あなたがよく飲んでいたミルクティーの缶を片手に。
ミルクティーはこれでもかというように甘くて、私は一口飲んで、舌を巻いてしまった。よくあなたはこんなものを毎日のように飲んでいたな、と。
私は冷えた缶を掴んだまま、小路の入口で立ちすくむ。ここが消えてしまうのかと思うと、小路の佇まいや風景をこの目にきっちりと焼き付けておきたいと思った。二人並んで歩くのが精一杯の狭さの中にある爽やかさや、涼し気な雰囲気。人によっては薄気味悪いという小路だけれど、私にとっては、とても思い入れのある大好きな道だから。
小路は入ってすぐに私を喜んで迎えるように、風が木々の葉を揺らした。もうすぐで無くなってしまうということも知らずに、小路はいつもと変わらずに、私を迎えてくれる。
私は道に足を踏み入れると、小路のあちこちにあなたの面影を探し歩いた。
私とあなたは手を繋いで歩いたし、本当に他愛のない会話をしていた。二人で交わした会話なんて思い出せないほどに溢れ返っていて、それと同じくらいにあなたの影は存在している。影と同じくらいにあなたと小路を歩いて、私は同じ分だけあなたを好きになった。同じ分だけ、私は切なくなる。
あなたがいなくなってから、まだ何ヶ月しかたっていない。あなたのいない日常が当たり前になって、あなたを思い出す回数が減っていった。このまま忘れていってしまうのかもしれないと思うと、私は悲しくなる。もっともっとあなたとの時を共用していたかった。
あなたとの思い出が、この小路と共に、またひとつ減っていく。


あきゅろす。
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