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夜8時のお出迎え



午後八時、お母さんがもうすぐ帰ってくる。
僕は家を飛び出すと、帰ってくるお母さんを迎えようといつものように非常階段へ急ぐ。階段から身を乗り出したら見えるマンションの入り口に、お母さんが姿を現すのを待つのが僕の日課になっていた。大体八時半過ぎから十二時まで。
僕の家はお父さんが死んでから、おばあちゃんとお母さんと三人暮らしだった。意地悪なおばあちゃんにお母さんはいつも泣いていたし、僕はおばあちゃんが大嫌いで、あんなおばあちゃんさっさと死ねばいいと思っていたけど、僕が小学校に入ってしばらくしておばあちゃんは病院に入院して、この前やっと死んだ。それ以来お母さんは毎日楽しそうに笑っていた。それが僕は嬉しかった。僕を見下ろして笑うお母さんの、そんな顔を見るのが僕は嬉しくて嬉しい。
だから、笑うお母さんを迎えに僕は家の前でお母さんを待つ。例えお母さんに邪魔だ消えろと言われ叩かれても、僕を見て笑うお母さんを見るのが僕は大好きだった。
冷たい風が吹いていて、半袖だから少し寒い。だけどお母さんを迎えるために少しだけ我慢して、階段の囲いから身を乗り出してお母さんを待つ。もう暗いし、お母さんかどうかを見極めるのは街灯と、いつも着ている真っ赤なコートと長い髪。
三人のサラリーマンと一人の女子高生とマンションに入ってきた後、お母さんは白い車から降りて現れた。着ているのは真っ赤なコート。
お母さんに続いて運転席からサラリーマンみたいな人が出てきて、お母さんを抱きしめる。
僕は早くお母さんに会いたかった。あの男の人は邪魔だった。お母さんを抱きしめるあの男の人はとても邪魔だ。お母さんに抱きしめられるのは僕だけでいい。お母さんに抱きしめられるのは僕だけなのに。男の人はお母さんをなかなか離さない。お母さんはいつもみたいに泣いているのか。ごめんなさいごめんなさいと悪いことをしていないのに泣きながら謝って、だから男の人はお母さんを離さないのか。
僕はお母さんを泣かせたあの人を許さない。早くふたりを離さなければ、お母さんは嫌がっているのに。
僕は手摺りに足をかけると、飛び降りた。早くお母さんのもとに行かないと。


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