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流れる曇り空の向こう


カタカタカタカタカタカタ

まるで家出おんな。
でかい荷物ふたつ。
どうしてここにいるのだろう、私は自分に問い掛けて、あなたから逃げてるの、と答える。
あなたから逃げてるの、あなたから、あなたとは誰でしょう。
ゆっくり走る、人がガラガラの電車の席から見上げた曇り空。
ここ何日も空は曇り空。
晴れない、雨も降らない、私は荷物をカバンにつめて、あなたから逃げるために部屋を出た。

カタカタカタカタカタカタ


なぜ、
どうしてここがわかったんだろう。
私はあなたに問い掛ける、あなたは答えない、あなたは笑った。
駅のホームから、聞こえた笑い声。
私は曇り空を見ていた。

"ずっと待っていた"
それは嘘だろう。

あなたは可笑しそうに笑う、私を嘲り笑う。
シューッ、扉が閉まってあなたを置いてきぼりにする。
あなたはいつまでも笑っていた。

カタカタカタカタ

妙な音をたてて電車は走る。
相変わらず曇り空。
急に風に掠われた髪の毛、年配の女性は私を見て可笑しそうに笑った。
一瞬、あなたかと勘違いする、あなたはこんな笑い方をしない。
「あらあらあら」
いつから開いていたのかしらね、

よっこらせ、と立ち上がり、窓を閉める年配の女性はやっぱり可笑しそうに笑っている。
"ふふふふ"
風にのって聞こえた声、
どこかで聞いたような気がする。
それがどこでなのかが、何故か、思い出せない。


カタカタカタカタカタカタ

電車は時刻通り進み、急ブレーキをかけて停まった。
どうしてそこにいるのだろう。
私はあなたに問い掛ける、あなたは答えない、あなたは私を見て首を傾げた。
待ち伏せされた駅のホームから、また聞こえた笑い声。
あなたが笑っていた。

"ずっと待っていた"
嘘だとわかってる。

あなたは可笑しそうに笑う、私を嘲り笑う。

プシューと
扉が閉まってあなたを置いてきぼりにする。
あなたはいつまでも笑っていた。

カタカタカタカタ

妙な音をたてて電車は走りだした。
どこまで行っても曇り空。
急に風に掠われた髪の毛、年配の女性はこちらを見て首を傾げた。

「あらあらあら」
閉めたはずよね、
よっこらせ、と立ち上がり、窓を閉める年配の女性は不思議そうに笑っている。
"ふふふふ"
風にのって聞こえた声、
どこかで聞いたような気がする。
それがどこで聞いたのか、何故か、思い出せない。


カタカタカタカタカタカタ

あなたが昔、私に言った言葉が今でも忘れられずにいるみたいだ。
曇り空を眺めていたら、思い出してしまった。
"ずっと一緒にいよう"
私は笑って頷いたようだった。
あなたはやっぱり笑っていた。


カタカタカタカタカタカタ


電車は時刻通り進み、急ブレーキをかけて停まった。
どうして…
私は問い掛ける気力をほぼ失くして、あなたはわかっていると、可笑しそうに笑った。
待ち伏せされた駅のホームから、またまた聞こえた笑い声。
"あなたを見つけられる"
そんなことわかってる。
"すべてわかってる"
そんなこともわかってる。

プシューと
扉が閉まって再度あなたを置いてきぼりにする。あなたは閉まるドアの向こうで可笑しそうに笑う、私を嘲り笑う。
"逃げるの?"
私は走り行く曇り空を見ていた。


カタカタカタカタ

妙な音をたてて電車はまた走りだす。
どこまで行っても相変わらず曇り空。
今頃あなたは何をしているのだろう、私は曇り空を観察しながら、あなたに問い掛ける、あなたは答えない、私はそれを知っている、何度も問い掛ける。
4急に風に掠われた髪の毛、年配の女性はこちらを見て不機嫌そうに顔をしかめた。

「もう」
なんで、

立ち上がり、窓を閉める年配の女性は大きく溜め息をついた。
"ふふふふ"
風にのって聞こえた声は、
やっぱりどこかで聞いたような気がする。
だけど、どこで聞いたのかが、やはり何故か思い出せない。
笑い声は私の中に残る、消えない、消そうとしない。
曇り空と笑い声、それが何故か、恐かった。


カタカタカタカタカタカタ

電車は時刻通り進み、また急ブレーキをかけて停まった。
ドアは開かない。
待ち伏せされた駅のホームから、また聞こえた笑い声。
"逃げても無駄"
そんなことわかってる。
"あなたはわかってる"
開かないドアの向こうであなたが笑っている、私を嘲り笑う、わかっていない、私を笑う。
カタカタカタ、ドアも開かずに、電車はあなたを置いてきぼりにする。
あなたはやはり笑っている、あなたは過ぎ去るホームから消える。


カタカタカタカタ

妙な音をたてて電車は走りだした。
どこまで行っても曇り空。
急に風に掠われた髪の毛、年配の女性はもう無反応だった。

「……」

年配の女性は目をつむって下を向いていた。
開いた窓からは風が入ってくる。
5私は開いた窓から曇り空を見ていた、風が気持ち悪かった。


カタカタカタカタカタカタ


急ブレーキをかけて電車が停まった。
ドアは開かない。
ここは、
駅ではない。

"逃げても無駄"


"ふふふふふ"


あなたは窓の向こうに立っていた。
ふとあなたが消えたかと思うと、どこからか男性と思われる、叫び声がした。
あなたがやったのね、あたしは曇り空を眺めていた。


電車は動かない。
年配の女性はあなたに気がつかない、ずっと動かずに俯いている。
きっと電車が止まったことにも気がついていない。
私は立ち上がり、年配の女性に触れてみる。
死人のように冷たかった。

年配の女性の向こうに、あなたの顔があった。


"ずっと 一緒だよ"


私はわかっていたはずだった。
あなたから逃れることはできないと。
だけどわかっていなかったのだ。
だから、やっと今気付く。

あなたから逃れられない。

"そうだよ"

あなたはとっくに死んでいた。





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