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rain


家を出ると雨が降っていた。
僕は手に持っていたビニール傘を玄関に立て掛けると大きく息を吸う。水の冷たい空気が鼻から身体の中に入ってくる。
外も相変わらず息苦しい。家の中と変わらず、孤独に包まれているのは部屋の中だけではなかった。息苦しいのは彼女の言う孤独だ、この世界は孤独よ、だから息苦しいの。知ってた?彼女は皮肉るように笑っていた。
長い夜は嫌い。音のない部屋に吸い込まれていきそうになるから。息が出来ないの、息できるのに、息出来ないの。あなたにわかる?
僕は頭を左右に振ると、雨の中、ガムシャラに走った。ポケットに入ったお金がチャラチャラと鳴り、やけに耳に障る。
彼女が追い掛けてきてるような気がして、走っても走っても逃げ切れない。滴る赤、白い顔、冷めた声、彼女が追い掛けてくる、もう諦めたの、無気力、愛してる、こうやって、世界は崩れていくの、渇いた血と彼女の涙。
コンビニに駆け込むとカミソリを手にして、レジに投げるように置く。
「そのままで、いいです」
店員が怪しげに息を切らす僕を見て、カミソリにシールを貼る。僕は二百円を置いてカミソリを持ってコンビニを飛び出す。
「今いくから」
これから死ぬから、彼女がそう言って電話を切ったあと、僕は見てしまったんだ。
彼女が好きだと言っていたマンションの裏口へ回り、ドアを開ける。鍵、壊しちゃったんだ、彼女の笑みを見たのはこの時だけだった。僕と彼女だけの一番最初の秘密。
エレベーターで屋上まで行くと、また彼女が鍵を壊したドアを開け、僕に雨が降りかかる。雨が降っていたことを忘れていた、髪も服も、濡れていた。
カミソリを袋から出すと、腕にあて、力を入れて横に引く。あっという間に血があふれ、雨と共にコンクリートに滴る。
雨の降り注ぐ暗い空見上げると、いてぇぞー、と叫んだ。お前の痛みはこれだけか、こんなもんなのか、俺だって、お前しかいなかったんだ。
この一瞬で崩れてしまったの、わたしの孤独は果てがないわ。
傷だらけの腕で、切る場所もないほどの腕で、首から流れた血でベッドを染めて、彼女の世界は赤に染まった。息の仕方を忘れた彼女の最終手段でも、それは僕にとって残酷だ。
僕は屋上の柵を乗り越えた先に足をついて、血だらけの腕を空に突き出す。
こうやって世界は崩れていく、
彼女の世界はいつまでも届かない、孤独のあまり息ができない、君に教えてあげるよ、誰もいない世界で生きてるのは君だけじゃない。
僕の世界は、とっくの昔に崩れていた。今更恐くはない。






あきゅろす。
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