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私は正面に佇む彼の姿を見つめ、呆気にとられていた。彼がここ数日、ベンチにどうして座っていたのかはかったけれど、その結末は実に呆気ない。彼のここ数日の空白に近い時間は、たった数分で、あっという間に消されてしまった。
きっと私より、断然彼の方がひどく呆気に取られているに違いない。口をぽかんと開けて立ちすくみ、身動き一つ見せない。瞳には何かが写っている様子はないし、目の前が真っ暗になって、現実を受け止められないでいるのだろう。そんな彼に、私は同情を抱けずにはいられなかった。
私はひとつ、重い息をつくと、可哀相な彼を眺める。いつかの自分を見ているようで、とても痛い。彼の気持ちが恐いくらいに理解できてしまう。だから彼に声を掛けることも、慰めることも痛々しくて出来なくて、ただ彼を見つめていることしかできなかった。
彼の気持ちと私の気持ちがシンクロして、私まで頭が真っ白になってしまった。私まで筋肉が固まってしまったかのように身動きが取れない。
彼は体をビクリと震わせると、周囲に目をやり、私を見つけると再び動きを止めた。まるでイケナイコトをしてる所を見つかってしまった、小さい子のように。
私は彼が私を見ていないことがわかっていた。きっと見えていても、私を認識できていない。
彼はしばらくすると再びゆっくりと動きだし、自分が立っていた場所から1メートルとない場所にある、いつも座っていた木のベンチに腰をかけた。座るまでの過程は、スローモーションでドラマを見ているかのような、可笑しさを思い出させる。それがまた、痛々しい。
彼の数日は、とても空虚な物に思えてならない。その数日から彼が得た物は、きっと孤独感と忍耐力だけだろう。もしかしたら自分の強い想いも再確認できたかもしれない。だけどそれだけだ。これからの生活にとりたてて役に立つ物なんて手に入っていない。そんなのは悲しすぎる。彼は会社員風で、もしかしたら会社をサボってここに来ていたかもしれないのに。孤独感に包まれた彼は、無駄足を踏んだだけなのかもしれない。やっぱり、そんなのは悲しすぎる。
嫌なことなんて、瞳を閉じて次開けたら、なくなっていたら良いのに。







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