「……今の、何の音……?」
グレーテルが不安そうな声で、誰にともなく問いかける。
もちろんギャリーにもジルベルトにもその音の正体など解る訳がない。
問題や疑問は次々と浮上してくるのに、重要な部分は解決できないまま新たな変化がやってくる。
まるで誰かが“教えてあげない”と焦らしているように。
「さっきの部屋から聞こえたみてェだな。」
「さっきの部屋?」
「オマエが気味悪ィ人形共に嵌められた部屋の事言ってンだよ。」
「……あぁ。」
「……………。」
ギャリーの疑問符に対してイヤミ混じりで返ってきた言葉に、当人だけでなくグレーテルまで複雑な顔をした。
もちろん、彼女自身もその人形に恐ろしい目に遭わされたからであるわけだが。
「何ぼさっとしてンだ。 さっさとしやがれ。」
そんな二人の心境などお構いなしにジルベルトがいつも通りの乱暴な言葉で先を促し、投げて寄越した『なりかわりのびじゅつひん』を掴んでさっさと次のドアへ手を伸ばしていった。 どうやら一応は共に行動をするつもりらしい。
一度見捨てられた事など知らないギャリーは、それに対して特に疑問を抱くでもなく渋々と立ち上がる。
「まぁ、とにかく進まない事にはどうにもならないものね。 行きましょ? グレーテル。」
ウサギの人形を抱いたまま真一文字に口を引き結んでいるグレーテルに手を差し伸べると、本音はともかくとして了承してくれたらしい。
のそりと立ち上がると、二人の後に続いて荒れた部屋を出た。
『一人でいると 恐ろしい
二人でいると 安心できる
三人でいると …………』
黒い服の女も、青い人形も、とうに原型すらなくなってしまったはずの何者もいない部屋で。
誰にも聞こえない笑い声が響いていた。