旅路へ着く前に、もう一言だけ
―旅人に花束を―
「やっぱ、行くんだ」
「あぁ…」
仕方ないことだった。
仕事にあぶれてしまったのだ。
シカマルの行くそこは、車の騒音も大きな繁華街もないような小さな町らしい。
きっと、そこらの田舎の方が人手不足の働き場がたくさんあるからだろう。
「仕事、決まってんの?」
「いや…、ひとまず知り合いの定食屋でバイトさせてもらって、それからのことは行ってから考えるつもり」
「そっか」
頭の回る彼のことだ、きっと見通しは立ってるに違いない。
あんなくだらない会社より自由に生きられるところを見つけたんだなとオレは思った。
ただ、会えなくなるのが寂しいけど、それは言っちゃいけないことだと思った。
オレは姉ちゃんや母ちゃんのいる、犬の訓練所みたいなとこで働いている。
シカマルは持ち前の頭脳で、誰しも一度は聞いたことがあるような大手株式会社で働いていたが、辞めてしまった。
オレには、なんとなく分かるような気がした。
「まあ、どーせこっちが恋しくなって一月もすれば帰ってくんだろーけどー」
「ねぇっつーの、ばぁか」
シカマルは笑った。
最近見なかった彼にしては珍しい笑顔だった。
きっと今、コイツは解放感でいっぱいで、喜んでて、だから止めちゃいけないんだ。
分かっていた。
ほんとは、いますぐ腕をつかんで押し倒して、行くのやめろって言いたいんだ。
でも、そしたらきっとシカマルは困るから。
「今日荷物持ってったんだろ」
「ああ」
「どのくらいかかった?」
「あー…片道8時間くらい」
「うっげぇ…じゃあ朝6時とかに出たのかよ」
「んー…まぁな」
「眠くねーの?」
「ねみぃ」
「だろーな」
オレは、そういって笑った。
暫くオレん家の玄関で立ち話をした後、シカマルが動いた。
一瞬の沈黙を見計らってかもしれない。
「じゃ、行くから」
「あぁ…まぁまたこっちくることがあれば連絡しろよな!」
「……ああ」
「…うん」
シカマルが言葉に詰まったのは否定を表しているからだと分かった。
きっと、もうこっちには来ないという意味だろう。
いやでも、シカマルの父さんや母さんはこっちにいるから、年に一回は帰ってくるか。
どっちにしろ、もう俺には会いに来てくんないんだろうなぁと、直感的に分かる。
それでもシカマルは、そうと言うつもりはないようだった。
「キバ」
「ん?」
「次会う時はお前の結婚式でだな」
「あるわけねーだろ?」
「分かんねーだろ?」
「ねーよ、絶対」
きっとそのは言葉は、シカマルなりのオレへの配慮だったんだろう。
それでもオレは笑ってやった。
きっとそれは将来嘘になるんだろうけど、確かに今は君が一番好きなんだよ。
「元気で」
「ああ、じゃあな」
レンタルしたといった小汚ない車は、もの凄い騒音をたてて夜道を走っていった。
その車も音も夜道も、何一つシカマルには似合わないと思った。
その形が見えなくなってからも、自分の気が済むまで暗い闇に手をふりつづけた。
(いつかまた会えなかったら、いいね)
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お別れ寂しかったけど、昨日手を振ってきたよ。
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