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彼の望みは一体何だったのだろう。






―そくらてぃっく―







「ねぇ梵天、ここの答え分かります?」




暖房がききすぎて生温い教室に数学の授業を終えるチャイムが鳴り響き、俺はやっと堅苦しい授業が終わったと少しだけスッとしていたのに、彼は教科書を広げたまま俺を手招きしてくる。


仕方なく俺は彼の側に向かう。



「どこ?」




「ここです」



少しぼーっとしていて聞き逃してしまって、という銀朱の言葉に、その問題へ目を通すと、





「こんなの分かる訳ないだろう」

それは一昨日くらいに解説していた応用問題で、正直ちんぷんかんぷんだ。



「貴方、授業聞いてなかったんですか?」



「君に言われたくないね、大体聞いてても分かる訳ないだろうこんな問題!」



「でも学期末のテスト範囲ですよ、ここ」



「………」



銀朱の教科書にはその問題の所に大きな星印がついていた。

俺がちゃんとノートをとっていたら、分からないでも見せてあげることは出来たのだが、生憎そんなことはしていない。
別に平常点などなくても構わないし。



大体俺も銀朱も文系だし、何の為にこんな問題を解かなきゃならないのか全く分からない。
数学者や科学者になるなら別だけど、普通はこんな数式など日常生活で使わないじゃないか!



「整数の+−×÷ができたら、なんの問題もなく生きて行けるだろうに」


「まぁそうですけど、やらなくちゃならないんですから仕方がないでしょう」




でも、中学で習った√や因数分解などでさえ社会人になれば必要なくなるのだから、高校の数学なんて本当に何の役にも立たないんじゃないのかい?


そんなことを考えいると銀朱が俺に、
「そんなことを言っていてもこの問題は解けないんですよ〜?」


……おや


一瞬少し考える。





「……俺、何も言ってないけど」



「大体は貴方が何を考えているのか読めましたから」



クスクスと笑いながら、貴方分かりやすいんですよ……と言われて、良い気がするわけがない。

俺は顔に出ないねとよく言われるタイプなのに。


「本当、意味分かんない」


「そうですねぇ…もういいです、後で先生に聞きに行きますから」



「そのことじゃないんだけど」


「はい?」




「…もういいよ」


はぁ、とため息をつくと、変な人ですねぇと彼の声。



おあいにくさま、あんたよりはちゃんとしてるよ。

そう言うと口論になりそうだったから、グッと我慢。


本当に良く分からないな彼のことは、と思いながら彼を横目で見たら、後で聞きに行くと言っていながらもさっきの教科書の問題と睨み合っている。


「もう諦めたんじゃなかったのかい?」



「……あ、」



いつの間にか気持ちが問題に向いていました…という彼の言葉から負けず嫌いなのが伝わってきて、少し笑えた。




そんな俺を尻目に、銀朱は少し感慨深そうな顔で俺に言う。



「もうすぐこの教科書ともお別れですねぇ」





「俺は嬉しいけどね、勉強とおさらば出来るのは」


「ま、貴方らしいですね」


確かに、この古ぼけた教室に思い入れがない訳じゃない。
それでも、大切なものはこの胸に刻んであるはずだから、無くすものはないと思う。



だから俺には『卒業する』のは嬉しいに違いないのだけれど、世間一般には淋しいだとか卒業したくないだとか。

それなら留年でもしてしまえばいい話だといつも思っていた。



こんなことを銀朱に言ったら、貴方は冷たいですねぇ本当に血が通ってるんですかなんて言われること間違いないだろう。




「次の授業の用意した方がいいですよ、梵天」




彼がそういって、我に返った俺が見た時計の針は、もう次の授業開始一分前。

君のせいで休み時間が潰れてしまったじゃないか。



そう銀朱に当たってやろうと思ったのに、何故か彼は俺をみてニコニコしている。



「…気持ち悪い」


「失礼ですね、可愛い笑顔だねって言ってくださいよ」



それでも笑い顔をやめない彼に、少し苛立つ。


「本当によく分かんないやつだね」


そういって彼の側を離れる。




つもりが、服の端をきゅっと掴まれてそれは叶わなかった。



「…何なの」



「ねぇ、質問があるんです。本当は以前から聞こうと思ってたんですけど」

そう言った彼の顔は、すごく優しい笑顔のはずなのに、どこか気味が悪い。



「………言ってみなよ」


「もし、もしも私が………」


その時タイミング悪く授業開始のチャイムがなった。


それまで五月蠅かった奴等の声が止み、教師が入ってくる。



「ほら…早く言いなよ」


「いえ、始まってしまったので今度でいいです」


「…そう」



俺を引き止めておいて、結局何も言わないのかい、と思ったけど今はとりあえず席にもどらなければ。




その時、銀朱の口が小さく動いた。



「…             ?」




「…え、」



「こら、早く席につけー」


教師の太い声がしたが、そんなの耳に入らない。


「ちょ……銀朱、今なんて、」


「お前だ、お前」


その教師が歩みよってきて、立ち尽くした俺の頭を教科書で叩いた。


そんなことをされたのは初めてで、教室からクスクスと微かな笑い声。


それでも足がすくんで動かない。


頭が働かないのだ。







彼がさっきいった言葉が頭の中をぐるぐると回っていて、







どうか、聞きまちがいでありますように。














『もし、私が…        ……』





(そんな、永遠の命などないとは分かっていたけれど)




■□■□■□■□■□■□■



な、がくなりましたーーー(><

私早打ちは得意なはずなのになぁ……

もしかしたら後編するかもです。


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